地域包括ケアシステムにおけるリハビリ職の役割とは
こちらのコラムでは、「地域包括ケアシステム」におけるリハビリの役割についてご紹介しています。地域包括ケアシステムの基本的な考え方についても詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
更新日:2023年04月06日
公開日:2021年09月07日

高齢化が進む日本では、高齢者が住み慣れた地域で自分らしく暮らすためには、さまざまな支援が必要とされています。
そこで新たな地域の取り組みとして推進されているのが、「地域包括ケアシステム」です。
既存の医療・介護保険サービスだけでは補いきれない部分をカバーし、地域で暮らす高齢者を支えるシステムとして、地域包括ケアシステムは構築されています。
リハビリ職として従事する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士とも密接に関わりを持つことから、地域包括ケアシステムの基本概念と、それに伴うリハビリの在り方についてご紹介していきます。
目次
地域包括ケアシステムとは
日本の総人口は減少となっているなか、65歳以上となる高齢者は増加し続けており、2020年には高齢者人口が3617万人と過去最多を記録しています。このような少子高齢化が進む日本では、団塊の世代が75歳以上となる2025年以降、医療や介護のニーズは現在よりもさらに高まっていくことが予想されています。
そこで、厚生労働省により推進されているのが「地域包括ケアシステム」です。
地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた地域で生活を続けていくためのシステムで、具体的な概要については以下のように挙げられています。
<地域包括ケアシステムとは>
高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で生活を継続することができるような包括的な支援・サービス提供体制の 構築を目指す「地域包括ケアシステム」。 (※)
(※)引用:厚生労働省/地域包括ケアシステムの5つの構成要素と「自助・互助・共助・公助」
地域包括ケアシステムの構築においては、市町村や都道府県が地域の特性をふまえたうえで主体性や自主性に基づいて作り上げていくことが求められています。
なお、地域包括ケアシステムを推進していくうえで、中心的な役割を持つのが「地域包括ケアセンター」です。
地域包括ケアセンターは、市町村から委託された法人(在宅介護支援センターの運営法人や社会福祉法人、公益法人、医療法人、NPOなど)によって運営されており、保健師、社会福祉士、主任ケアマネージャーなどが配置された高齢者の総合相談窓口となっています。
地域包括ケアセンターでは、主に介護予防支援事業・包括的支援事業・権利擁護事業・総合相談事業の4つの業務を行っており、介護・医療・保健・福祉における専門知識を持った職員によって、さまざまなサービスの相談や介護保険の申請窓口などを請け負っています。
<地域包括ケアセンターの主な業務内容>
■介護予防支援事業
・指定介護予防支援事業所として要支援者のケアマネジメントを行う
■包括的支援事業
・介護予防ケアマネジメント…介護予防ケアプランを作成してケアマネジメントを行う
・包括的・継続的ケアマネジメント支援…自立支援型ケアマネジメントの支援を行う
■権利擁護事業
・判断能力が低下した人の相談支援や金銭管理、虐待防止などを行う
■総合相談事業
・幅広い高齢者の相談に応じ、必要なサービスや制度について説明し支援を行う
地域包括ケアシステムを構築する5つの要素と4つの「助」とは
高齢者の生活を支えるため、市町村や都道府県で実施されている地域包括ケアシステムですが、このシステムは以下の5つの要素によって構成されています。
■介護・リハビリ
■医療・看護
■保健・予防
■生活支援と福祉サービス
■住まいと住まい方
高齢者が増加していることで地域における医療・介護サービスの需要は高まっていますが、介護施設が不足していることもあり、地域包括ケアシステムでは施設によるサービスから在宅でのケアへと移行しつつあります。
そうした地域での在宅ケアを支えるためには、生活の基盤となる「住まい」の整備がなされていることが前提であり、経済力や個人の希望にかなった住まい方が確保できていることも大切です。
また、個々が抱える課題に対し「介護・リハビリ」「医療・看護」「保健・予防」といった専門サービスが適切に受けられること、また単身者世帯が増えているなかで必要な「生活支援と福祉サービス」が受けられることも、地域包括ケアシステムを構築するうえで必要なこととなります。
そして、これらの要素の土台として最も大切なことが「本人・家族の選択と心構え」です。
核家族化が進む日本では、いまや高齢者も単身者や高齢者のみの世帯が主流となっています。
そうしたなかで高齢者が在宅生活を選ぶということを、本人やその家族が理解し心構えを持つことは、地域で一体化したケアを行ううえでシステムの基盤として理解しておく必要があります。
このように、地域包括ケアシステムは5つの要素と高齢者とその家族の選択と心構えによって構成されていますが、従来の医療サービスや介護サービスといった公的サービスだけでは補いきれない部分がどうしても課題として浮かび上がってきます。
そこで、地域包括ケアシステムにおいては4つの「助」を連携させることを重要視しています。
具体的な内容は以下のようになっています。
1.自助
「自助」とは、自分で自分のことを助けること(セルフヘルプ)をいいます。
地域包括ケアシステムにおいては、介護保険をつかわなくても自分でできることは自分で行う、自ら自身の健康管理(セルフケア)に注意して介護予防に努める、自費で民間サービスを利用することなどが求められます。
2.互助
「互助」とは、地域住民による取り組みや活動などを通してお互いが助け合うことをいいます。
この取り組みや活動には、ボランティアによる生活支援や高齢者同士による集まり、生きがい就労などといった幅広い形態が想定されています。
暮らしのなかでは、近隣住民による買い出しやゴミ出しの手伝いといったことも、互助に含まれます。
3.共助
「共助」とは、介護保険、医療保険、年金、社会保険制度などによる相互扶助のことをいいます。
病院でのリハビリや訪問によるリハビリなどは、この共助に該当します。
4.公助
「公助」とは、税金による高齢者福祉事業や生活保護、人権擁護・虐待対策といった公的支援のことをいいます。
経済的困窮などにより自助・互助・共助では対応できないことを、公助によって支援していきます。
地域包括ケアシステムを機能させるには、4つの助(自助・互助・共助・公助)の連携が重要です。
都市部では、「互助」における地域との関わりが希薄である一方で、「自助」の民間サービスの市場が大きく利用がしやすいという特徴がありますが、反対に都市部以外の地域では民間サービス市場が小さいながらも「互助」の役割が大きいといった特徴があります。
このように、地域によって特性や実情が異なるからこそ、4つの助の連携は必要不可欠であり、足りない部分を補ったり役割の大きな部分を充実させたりすることが大事なのです。
地域包括ケアシステムにおけるリハビリの在り方
地域包括ケアシステムにおける地域医療では、病気の治療や救命にとどまらず安心と安全が備わった地域での生活へ繋ぐことが重要です。そのためには、急性期・回復期・生活期のリハビリから地域リハビリへとそれぞれの段階に合わせて役割を理解し、切れ目なく次のステップへ流れるような体制作りが求められます。
地域リハビリでは、これまでも急性期から回復期、そして生活期のリハビリによって在宅復帰支援を受けた高齢者が、生活機能やQOL(Quality Of Life)の向上や維持を目指してきました。
しかし、団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けては、これらに加えて高齢者の社会参加支援にも着目していく必要があります。
それには、介護予防をはじめライフステージに合わせた継続的なリハビリ(訪問・通所など)の提供や、改善が困難な人々も社会参加し、その人らしい暮らしを送れるように地域住民も含めた総合的な支援などを実施していく必要があります。
これまでのリハビリの在り方は生活機能の向上と社会参加が主な観点とされてきましたが、これからは地域包括ケアを支えるリハビリとして機能していくことが新しい課題となってきています。
地域包括ケアシステムの推進で活躍の場が広がるリハビリ職
地域包括ケアシステムの推進によって、ますますリハビリの必要性は高まっています。住み慣れた地域で自分らしく暮らしていくためには、身体を動かすことや日常生活に欠かせない細かな動作を行うことは必要不可欠であり、それには理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といったリハビリ職が大きく関わってきます。
また、地域包括ケアシステムの概念でもある「介護予防」も非常に重要です。
要介護と認定される理由は大半が身体的な衰えからくるため、介護予防の観点においては適時・適切なリハビリを通し、心身の健康を保つことや社会参加の機会を増やすことが必要となります。
また、これまでは全国一律の医療・介護保険サービスによって急性期から維持期にかけたリハビリの提供がなされてきましたが、2015年以降は地域事業として「介護予防・日常生活支援総合事業」も加わり、リハビリ職の活躍の場は更なる広がりをみせています。
これらをふまえて、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が医療と介護の領域において具体的にどのような場所で活躍しているのかをみていきましょう。
医療現場
医療現場におけるリハビリ職の活躍の場は幅広くあります。急性期・回復期・維持期のほか、訪問型のリハビリでも活躍しています。
■急性期の病院
急性期のリハビリテーションでは、血圧や呼吸状態などを見てリスク管理を行いながら、「起き上がり」「寝返り」「立つ」「座る」などの基本動作のリハビリを行います。
■回復期の病院
回復期のリハビリテーションでは、患者さんの病状や身体の状態を確認しつつ、個別に作成しているリハビリ計画に合わせ、PT・OT・STの役割に応じたリハビリを行います。
■維持期の病院
維持期のリハビリテーションでは、回復期のリハビリを行いつつ日常生活の復帰へ向けたリハビリを行います。
維持期では、患者のQOLの向上を目指したリハビリを中心に行うため、患者によってリハビリの内容はさまざまです。
■訪問リハビリ(病院・診療所など)
訪問型のリハビリテーションでは、PT・OT・STが利用者の自宅を訪問し、心身機能の維持や回復と日常生活における自立支援を目的にしたリハビリを行います。
介護現場
介護現場におけるリハビリ職の活躍の場は主に介護施設が中心となりますが、介護施設にはさまざまな施設形態があるため、全国各地の介護施設で多くのリハビリ職が高齢者と関わりを持っています。■介護施設(有料老人ホーム・老人介護保健施設・特別養護老人ホームなど)
生活に必要な基本動作や応用動作、またケガや病気の回復を目指し、PT・OT・STの役割に応じてリハビリを行います。
■通所介護(デイサービス・デイケア)
要介護あるいは要支援認定を受けた利用者が日帰りで通えるリハビリ施設において、必要なリハビリを行います。
要介護認定であればデイケア、要支援認定であれば予防介護のリハビリを受けることができます。
多様なニーズを受けて高齢者の暮らしを支えるリハビリ職
地域に住まう高齢者が尊厳をもって自分らしく暮らしていくには、要介護となる前の一次予防をはじめ、介護が必要となったあとの重症化を防ぐ二次予防が大切で、地域包括ケアシステムを構築するうえでリハビリテーションが持つ役割はますます大きなものとなっています。施設から在宅へとケアの場が移行していることにより、地域における高齢者のリハビリのニーズは訪問、通所、在宅と多様化していますが、その人らしい住まい方、暮らし方がリハビリの最終目標であることには変わりありません。
そのため、リハビリに従事する理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、持病や障害などを抱えていても高齢者が社会と繋がりを切らさないようにするために、"地域での暮らし”を念頭に入れたリハビリを提供することが求められます。
もちろん、医療や介護だけでなく福祉や保健、生活支援といったあらゆる側面から高齢者を支えていくことも地域包括ケアシステムの構築には欠かせませんが、日常生活に必要な動作を身につけるためのリハビリが持つ意味合いは大きいといえます。
2025年に向けてさらに加速していく高齢化社会を見据え、リハビリ職は高齢者との関わりを通してその人らしさとは何かを常に考え、地域での住まい方をともに模索することが更に求められていくことでしょう。
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