
突然発症しやすい脳の病気でよくみられるのが「片麻痺」という症状です。片麻痺は片方の手足が動きにくくなる症状で、重度の場合は日常生活にも悪影響をおよぼします。家族が突然病気で片麻痺になったとき、大きな不安を持つ人は多いでしょう。しかし発症の時期に応じて適切なリハビリを行うことで、片麻痺の改善が期待できます。この記事では片麻痺の症状や原因、発症時期に応じたリハビリの内容についてご紹介します。
目次
片麻痺とは?
片麻痺という言葉を聞いたことがあっても、実際にどのような症状なのかイマイチわからない人もいると思います。ここでは片麻痺の症状や原因などについて説明します。片方の手足が動きにくくなる症状
片麻痺とは、脳の障害によって左右片方の手足や顔が動かしにくくなる症状です。 本来手足を動かすとき、脳から「動け」という指令が神経を伝っていきます。そして指令が手足に届くと運動が開始されます。しかし脳や神経が障害されると手足に指令が伝わりにくくなり、動かすのが困難となるのです。また片麻痺以外にも、以下のような麻痺が存在します。
● 四肢麻痺:両手足が動かしにくくなる
● 対麻痺:両足が動かしにくくなる
これらの麻痺は脳の障害以外にも、脊髄や末梢神経によって引き起こされることがあります。
片麻痺の多くは脳卒中が原因
片麻痺が出現する原因の多くは「脳卒中」にあります。脳卒中は脳内の血管に穴があく、あるいは詰まることで、片麻痺をはじめとしたさまざまな症状が起こる病気です。脳卒中には大きく分けて以下の3つに分類されます。● 脳梗塞
● 脳出血
● くも膜下出血
脳梗塞は血栓が原因で血管が狭まる、詰まることで発症します。脳出血は脳内の動脈が破れると発症する病気です。くも膜下出血は脳の表面にある血管が破れて「くも膜下腔」と呼ばれるスペースに血液が流れると発症します。 これらの病気により脳の機能が障害されて、片麻痺の症状が現れます。
片麻痺と同時に起こりやすい症状
脳卒中を発症すると片麻痺が出現しやすいと説明しましたが、それ以外にも以下のような症状が同時に起こることが多いです。● 視野が狭くなる
● 呂律が回らず、話しにくい
● 目の前のものが認識できなくなる
● 性格が変わる、怒りっぽくなる
● 道具の使い方がわからなくなる
● 言葉が出にくくなる
● 相手の話が理解しにくくなる
このように手足の動きだけでなく、視覚や口の動き、思考にも影響が出る可能性があります。片麻痺をふくめたこれらの症状は後遺症として残る可能性は高いですが、脳卒中になったからといってすべて出現するわけではありません。障害された脳の場所によって症状は異なるので、脳卒中を発症した後に診断・評価を行い、詳しく調べる必要があります。
片麻痺の診断・評価
片麻痺の原因となる脳卒中を診断する際は、おもにCTやMRIといった画像診断を行います。CTでは脳出血やくも膜下出血が、MRIでは脳梗塞を診断するときに役立ちます。 実際に片麻痺かどうかを評価するときは、自覚症状や実際の動きの確認が大切です。とくにリハビリでは以下のような細かい評価を行い、片麻痺の程度を調べます。● ブルンストロームテスト
● SIAS(サイアス)テスト
これらは共通して、どれくらい手足が動くかを確認するテストです。SIASテストは手足の動き以外にも、感覚や筋肉の緊張感、痛みなども同時に評価します。 画像診断や片麻痺の評価は定期的に行い経過を追うことで、今後どれくらい改善するかを予測する材料にします。
片麻痺のリハビリの流れ
片麻痺の概要について理解したうえで、実際にリハビリ方法について確認してみましょう。ここでは脳出血や脳梗塞で片麻痺となった人に、どのような流れでリハビリを行うのかを説明します。急性期のリハビリ
脳卒中が発症した直後の時期を急性期といいます。急性期に対応した病院に入院し、早期の治療・リハビリを開始します。この時期ではまだ発症直後のため、症状や調子が安定しない状態です。片麻痺は脳卒中になってすぐに発症するとは限らず、数日経過して徐々に手足が動かなくなるケースもあります。そのため積極的な運動は控えて、ムリのない範囲で以下のようなリハビリを進めます。● 筋肉が固まらないためのストレッチ
● ベッド上での手足の運動
● ベッドからの起き上がり
● ベッドから車イスへの乗り移り
ベッドやその周辺のリハビリを中心に、身体機能の維持をしながら動作の練習を行います。
回復期のリハビリ
急性期から日数が経過し、症状や調子がある程度安定してきた時期が回復期です。この時期は身体が回復に向かっている状態なので、日常生活で必要な動作を取り戻すために積極的なリハビリを行います。基本的な動きから応用的な動きまで、患者さん一人ひとりの生活背景にあわせてリハビリを実施するのが特徴です。身体機能が改善してきたらスタッフと家族と付き添いで自宅に戻り、実際の動作を確認する「外出訓練」も行います。その他にもソーシャルワーカーやケアマネージャーと連携し、自宅環境の調整や退院後のサービスなども検討していきます。
維持期のリハビリ
片麻痺をはじめとした症状がある程度改善し、病院を退院して自宅で生活するようになった時期を維持期といいます。この時期のリハビリは、訪問看護サービスやデイサービスなどの利用によって行われます。維持期で大切なのは、これまでのリハビリで改善した身体機能を落とさないようにすることです。病院から退院するとリハビリを行う機会が少なくなるので、身体機能が徐々に低下する危険性があります。それを防ぐためにも、うまくサービスを利用してリハビリの機会を作りましょう。
片麻痺のリハビリの内容
片麻痺のリハビリは以下の3つの職種が中心に行い、さまざまな視点からアプローチをします。● 理学療法士
● 作業療法士
● 言語聴覚士
ここでは、それぞれの職種のリハビリ内容について説明します。
理学療法士は身体の機能の改善を目指す
理学療法士は、日常生活で基本となる動作の獲得を目指してリハビリを行います。基本的な動作とは「歩く・立つ・座る」などです。これらの動作を獲得するために、おもに以下のような治療方法で身体機能の改善を図ります。● 運動療法
● 物理療法
● 装具療法
運動療法では筋力トレーニングやストレッチ、歩く練習などの運動を行います。物理療法では電気や温熱などが発生する機械を使用して、筋肉を動かしたり、血流を促したりする治療法です。片麻痺の影響でうまく立つ・歩くのが困難な場合、足を固定して動作をサポートする装具療法を行います。患者さんの症状や希望にあわせてリハビリプログラムを設定し、さまざまな治療法で目標の達成を目指します。
作業療法士は日常的な動作の改善を目指す
作業療法士は基本的な動きだけでなく、その人に必要な応用動作の獲得を目指してリハビリを行います。応用動作とは、その人らしく生きるために必要な動きともいえるでしょう。たとえば、自宅内で家事をするなら洗濯や料理、掃除の練習を行う必要があります。その他にも趣味で編み物をするのなら、手指を細かく動かす練習が必要です。このように、生活の幅を広げるリハビリを提供するのが作業療法士の特徴です。患者さんによっては社会復帰のためにパソコンを操作したり、公共交通機関を実際に利用したりすることもあるでしょう。
言語聴覚士は飲み込みや発声の改善を目指す
言語聴覚士は運動麻痺によって困難となった飲み込みや発声の改善を目指します。片麻痺になると口にも影響が出て、食べ物がうまく飲み込めなかったり、声が出にくくなったりすることもあるのです。そのため、食べやすい形態で飲み込む練習や、発声の練習を行います。また集中力が低下する、相手の話が理解できなくなるなどの症状に対するアプローチも行います。このように、言語聴覚士は頭や口といった内面の機能のリハビリを中心に実施するのが特徴です。
片麻痺の人の自主トレーニングメニュー
病院でリハビリを行っても、自宅に戻った後になにも運動していなかったら、身体機能は少しずつ落ちてしまいます。ここでは片麻痺の人が1人でもリハビリができるように、自主トレメニューを「腕・足・体幹」の3種類に分けてご紹介します。腕の自主トレーニング
まずは腕の上げ下げの体操です。1. イスに座って両手の指を組む
2. 肘を伸ばした状態でゆっくりと腕を上げる
3. 可能な範囲まで腕を上げたら、ゆっくりと下げる
4. 2と3の動きを5回×3セット行う
腕の上げ下げは、肩が痛くならない範囲で行いましょう。片麻痺の影響で両手の指が組めない場合は、動ける方の手で反対の手首を持って行いましょう。
次はあお向けになった状態での体操です。
1. あお向けになって膝を立てる
2. 両手を組んで天井に向けて肘を伸ばす
3. 肘を伸ばした状態で腕を右方向に倒す
4. 可能な範囲まで倒したら、左方向に倒す
5. 3と4の動きを5回×3セット行う
腕を左右に倒すときは身体をなるべく動かさないように気をつけましょう。
足の自主トレーニング
最初は膝伸ばしの自主トレーニングです。1. イスに座る
2. ゆっくりと膝をまっすぐ伸ばす
3. できる限り伸ばしたらゆっくりと下ろす
4. 2と3の動きを左右の足に切り替えながら10回×4セット行う
膝を伸ばすことを意識し、太ももを上げないように注意してください。次に立ち座りの練習を紹介します。
1. イスに座って両手を膝の上に乗せる
2. 体重をしっかりと両足に乗せながら立ち上がる
3. ゆっくりと座る
4. 2と3の動きを10回×3セット行う
立ち座りでは、麻痺している足にも体重を乗せながら行います。立つのが難しい場合は、手で膝を押してアシストしたり、手すりを使用したりしてみましょう。
体幹の筋力トレーニング
まずは腹筋のトレーニング内容です。1. あお向けになって膝を立てる
2. 腰の下に折りたたんだハンドタオルを敷く
3. 敷いたタオルを下に押しつけるようなイメージで腹筋に力を入れる
4. 5回×5セット行う
腹筋に力を入れるときは、息を止めないように気をつけましょう。
次に背筋のトレーニングです。
1. イスに座って腰に両手を当てる
2. 身体の力を抜くようなイメージで骨盤を後ろに倒す
3. 骨盤を立てて姿勢をまっすぐにする
4. 2と3の動きを10回×3セット行う
このとき、目線はなるべくまっすぐ前を見た状態で行いましょう。 これらの自主トレーニングはあくまでも一例です。病院でリハビリスタッフから自主トレーニングメニューを指導された場合は、そちらを優先しましょう。またトレーニングの回数も人によって異なるので、ムリのない範囲に調整してください。
片麻痺になったときに役立つ福祉用具
片麻痺で手足が思うように動かないときは、福祉用具を使用して動作をサポートします。ここでは片麻痺になったときに役立つ福祉用具についてご紹介します。杖・歩行器
片麻痺で歩くのがむずかしいときは、杖や歩行器などの歩行補助具を使用します。杖にはさまざまな種類があり、そのなかでもよく使用するのが「1本杖」と「4点杖」です。1本杖はいわゆる一般的な杖のことで、片麻痺に限らず多くの人が使用されています。1本杖は接地面積が小さいため、杖に力を入れすぎるとグラグラしやすく安定感に欠けます。その分、歩くときに邪魔をしにくいので、片麻痺の影響が少ない人におすすめです。4点杖は足が4つある杖で、接地面積が大きい分安定感があります。しかし、地面がデコボコしていると安定感が下がります。そのため4点杖は片麻痺の影響が大きく、平面を歩く機会が多い人におすすめです。片麻痺の程度や生活背景によっておすすめの歩行補助具は変わるので、スタッフとよく確認しながら選びましょう。
車イス
歩行補助具を使用しても歩くのがむずかしい場合、車イスを使用します。車イスにもさまざまな種類があり、片麻痺の症状と自宅環境を考えながら選びます。たとえば、自分で車イスを操作できるなら自走タイプの車イスがおすすめです。また家の部屋や通路が狭くて普通の車イスが使用できないとき、コンパクトなサイズの種類を選びましょう。歩行補助具を同じように、車イスも状況にあわせた種類の選択が大切です。手すり
片麻痺の人では転倒の危険があると考えられる場所に、自宅改修として手すりを設置します。手すりの代表的な設置場所としては、以下があげられます。● 玄関を入ってすぐの上り框
● トイレ
● ベッドの周囲
● 浴室
● よく使用する廊下
このような場所は転倒する危険性が高いので、自宅改修を検討している人は参考にしてみましょう。
自助具
福祉用具だけに限らず、身の回りの動作をサポートしてくれる便利な道具もたくさんの種類があります。片麻痺で手が動かしにくく、食事しにくいときは箸が持ちやすい「自助箸」や食べ物がすくいやすい「自助食器」が役立ちます。靴下が履きにくい場合は、片手でもラクに行える「ソックスエイド」の使用がおすすめです。その他にも握力が弱くてもペットボトルを開けやすい道具や、入浴のときに安全に座れるシャワーチェアなどがあります。これらの自助具は福祉用具以外にもたくさんのグッズがあるので、なにか生活で困っていることがあれば、ネットで検索してみるのもいいでしょう。
電動ベッド
片麻痺の影響で起き上がるのがむずかしいときは、電動ベッドの導入がおすすめです。ベッドの高さや頭の位置を変えられる電動ベッドがあれば、横になったり起き上がったりする動きがラクになるでしょう。またマットレスもいくつかの種類があります。横になる時間が長く、床ずれが気になる人は体重を分散できるマットレスや、空気を利用したエアマットレスを使用するケースが多いです。片麻痺の症状やリハビリの流れを理解しよう
片麻痺の多くの原因は脳卒中であり、その他にもさまざまな症状が現れます。片麻痺を改善させて日常生活を取り戻すためには、発症時期に応じた適切なリハビリが大切です。また後遺症として症状が残ったとしても、歩行補助具や手すりなどの福祉用具があれば身体機能の低下を補うことも可能です。退院後も自宅で安全に過ごせるように、状況にあわせて家族がサポートできるような準備をしておきましょう。関連記事
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