地域包括ケア病棟見直しによりリハビリの必要性は高まる?
2020年度診療報酬改定で地域包括ケア病棟の見直しが行われたことによって、リハビリの必要性は高まるのかを詳しく解説しています。
更新日:2023年04月06日
公開日:2020年08月26日

地域における医療の要ともいえる地域包括ケア病棟は、全国的にさまざまな病院で導入が進んでいる一方で、疾患別におけるリハビリの実施状況が不透明とされるケースや施設基準が厳しいとの声もありました。
しかし、2020年度診療報酬改定で地域包括ケア病棟の見直しが行われたことで、地域包括ケア病棟が担う役割が明確化してきました。
これによって、理学療法士や作業療法士といったリハビリ職の活躍の場はさらなる広がりをみせていくといわれていますが、その理由にはどのようなことが関係しているのでしょうか。
地域包括ケア病棟をめぐる医療体制の見直しを確認しながら、これによってリハビリがどのように影響してくるのかをみていきましょう。
目次
地域包括ケア病棟とは
地域包括ケア病棟とは、急性期治療を終了して病状が安定した患者さんに対し、在宅復帰に向けた医療や支援を行う病棟です。
地域包括ケア病棟が担う入院機能としては、以下の2つが主となります。
1.ポストアキュート…急性期病院や病棟からの受け入れ
2.サブアキュート…在宅や施設からの緊急の受け入れ
他の病棟と大きく違う点は、病名に関係なく入院ができ、在宅復帰に向けて必要なリハビリの提供を受けることができるという点です。
退院後の日常生活に近い形で服薬管理や運動習慣を身につけたり、リハビリを通して暮らしに必要な動作を練習したりするほか、認知症の介護に便利なグッズのアドバイスなども地域包括ケア病棟では積極的に行われています。
なお、入院期間は規定上最大で60日と定められており、主治医と相談のうえで入院期間を決めるという流れになっています。
これまでの地域包括ケア病棟の問題点と見直しによる改善点
地域包括ケアシステム(※)の構築において、地域の高齢者が在宅復帰を目指すための入院機能を持つ地域包括ケア病棟はなくてはならない存在です。
とはいえ、これまで地域包括ケア病棟の導入にあたり国が手探りのなか進めていることもあり、「病棟の施設基準が厳しい」「病棟の実態が不透明」との声も多く、導入にあたってさまざまな課題がありました。
例えば...
■地域包括ケア病棟に入院した患者のうち、自宅等から入院した患者が1割以上と定められているのに対し、実際は同じ病院の急性期病棟からの転棟患者が大半で地域包括ケア病棟として機能していない
■自宅や介護施設などからの患者の受け入れは実態を踏まえて基準を引き上げるべき
■リハビリテーション料が包括であるため、病院側の都合によって適切な疾患別のリハビリが実施されていないことがある
などといったことが問題視され、議論されることとなりました。
特に、本来であれば地域包括ケア病棟の役割として必要な「急性期治療後の患者の受け入れ」「在宅療養の患者の受け入れ」「在宅復帰支援」の3つの柱が、大きな病院になればなるほどポストアキュートに偏っているという内容には、批判の声が多く挙がっていました。
これらの声を受け、2020年度診療報酬改定ではポストアキュートだけでなくサブアキュートの役割にも力を入れる狙いをもって、要件の見直しが行われました。
この見直しによって大きく変わった内容は、以下の4点です。
1.400床以上の病院の地域包括ケア病棟について「自院の一般病棟(急性期病棟)から受け入れ患者」は一定の制限を設ける
2.200床未満の病院の地域包括ケア病棟について、サブアキュート実績の評価指標を見直す
3.許可病床数400床以上の病院について、地域包括ケア病棟の新設を認めない
4.DPC対象病棟から地域包括ケア病棟へ転棟した場合、入院日2までの間は診断群分類点数表に従って算定するよう見直す
これだけでは少し難しく聞こえてしまいますが、今回の見直しによって地域包括ケア病棟をめぐる医療体制はどのように変わっていくのか、具体的な見直しの内容についてそれぞれ詳しくみていきましょう。
(※)参考コラム:地域包括ケアシステムにおけるリハビリ職の役割とは
ポストアキュートに偏る400床以上の病院はサブアキュートの役割も強化!
まず、400床以上の病院に対する見直しについてですが、これは問題視されていた自院からの転棟患者の割合を制限し、偏りがちなポストアキュート機能を是正する狙いがあります。厚生労働省の調査によれば、400床以上の病院における地域包括ケア病棟の自院からの転棟患者の割合は約7割となっており、これらの現状をふまえて上限を設けたという内容です。
この見直しにより、400床以上の病院は自院からの転棟患者が6割を超えた場合、ペナルティとして診療報酬が1割減算されることが決まりました。
これによって、ポストアキュート機能だけに力を入れていた病院は、他院の急性期病棟からの受け入れや在宅からの受け入れにも今後力を入れる必要がでてきました。
ポストアキュートだけでなくサブアキュートの機能にも注力しなければいけない状況に変わったことで、在宅復帰に向けたリハビリの必要性は高まっていきそうです。
200床未満の病院は地域包括ケア病棟の中心に。在宅との関わりを強化!
地域包括ケア病棟を設置している病院のなかでも、特にサブアキュートの役割に期待が寄せられている200床未満の病院。今回新たに見直しが行われたのは、サブアキュート実績の評価指標についてです。
2018年度改定によって「『(B)sub acute患者受け入れ』実績の高い、200床未満病院における地域包括ケア病棟を高く評価する」仕組みについて、実態に合わせて実績の基準値を見直すものとなっており、具体的には以下のような改定が行われました。
■自宅等からの入棟患者の割合…10%から15%へ
■自宅等からの緊急患者の受入…3か月間で3人以上から3か月間で6人以上へ
そのほかにも、在宅医療等の提供を増やすことや、病院及び併設訪問看護ステーションの訪問看護等の回数を増やすことなどが盛り込まれました。
基準値が引き上げになったことで混乱が生じるのではと感じてしまいますが、実際は多くの病院が新たな基準をクリアしているケースが大半であり、引き続き地域との連携により在宅との関わりの強化が期待されています。
大病院は機能分化で地域包括ケア病棟の新設が不可に
以前から、大病院の役割として公立・公的でなくても機能を果たせる回復期と慢性期の機能は持たなくてもよいという議論がなされており、2016年度改定では地域包括ケア病棟の新設は1病棟のみとされていました。しかし今回の見直しでは、既存の地域包括ケア病棟がない病院は新設の届け出ができないという変更が行われ、機能分化が進みました。
ただし、令和2年3月31日時点で既に保有している地域包括ケア病棟の維持は可能となっており、すぐに400床以上の病院から地域包括ケア病棟がなくなるというわけではないようです。
そのため、規模の大きな病院でも引き続き上記に該当し病棟を保有しているところでは、まだまだ急性期のみならず回復期や維持期におけるリハビリは実施されていきそうです。
DPC点数による算定継続で収益メインの転棟に制御を
最後に、DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟に際する算定方法の見直しについてです。改定前はDPC病棟から地域包括ケア病棟に転棟した場合、転棟後は地域包括ケア病棟・病室の点数を算定する方法となっていましたが、改定後は期間2まで転棟後もDPC/PDPS点数を算定する方法に変更されています。
これは、DPC点数が地域包括ケア病棟入院料を下回ったときに収益に着目した転棟が行われるのを制御するための見直しで、患者の状態に応じた適切な入院管理が行われるようにする狙いがあります。
今回の見直しにより収益メインだった転棟は意味をなさないことになるため、DPC病棟からの不必要な転棟は今後少なくなっていくのではといわれています。
地域包括ケア病棟におけるリハビリの役割
地域包括ケア病棟の施設基準には、「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度1の患者が14%以上又は重症度、医療・看護必要度2の患者が11%以上」と「リハビリの必要な患者に対し1日平均2単位以上のリハビリを実施する」ことが入っています。また、厚生労働省の調査結果では、週30単位以上のリハビリを行っている病院が多数あり、理学療法士や作業療法士の仕事が大きく認められているのが分かります。
そして、今回の2020年度診療報酬改定では、「地域包括ケア病棟へ患者が入棟した際にADLスコアの結果などを参考にリハビリの必要性を判断し、患者又はその家族などに説明すること」といった内容が盛り込まれ、よりリハビリに対する考え方や必要性が高まっていることも分かります。
急性期治療が落ち着いた患者の在宅復帰支援において、地域包括ケア病棟におけるリハビリの役割は大きく、疾患別のリハビリだけでなく必要に応じて目の前の患者に向き合う姿がますます求められることになっていくことでしょう。
まとめ
2020年診療報酬改定における地域包括ケア病棟の見直しでは、病院の規模や機能の偏りといった現状をふまえ、地域包括ケア病棟の役割を明確にしていく内容となっていました。急性期治療を終えた患者の受け入れに集中していた病院は、在宅からの受け入れや在宅復帰支援にも注力していくこととなり、また地域包括ケア病棟の中心となる中小規模の病院は、よりその機能を強化していくこととなるでしょう。
地域包括ケア病棟の役割がきちんとバランスよく機能していくことで、今後リハビリの実施回数なども増え、理学療法士や作業療法士、そして言語聴覚士にとって活躍の場はさらなる広がりをみせていくはずです。
短期間で効果的なリハビリを実施していくことや、それぞれの疾患にあわせた充実した個別対応なども、さらに求められていくのではないでしょうか。
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