呼吸リハビリテーションにおける禁忌とは?適応と評価すべき内容も解説
呼吸リハビリテーションにおける禁忌とは?適応と評価すべき内容も解説
更新日:2023年08月31日
公開日:2023年08月17日

呼吸器疾患の患者さんに対するリハビリの実施基準について、複雑でよくわからないセラピストはいるのではないでしょうか。呼吸リハビリには適応・禁忌が設けられており、患者さんの状態にあわせて運動をすべきか判断する必要があります。この記事では、呼吸リハビリでの適応・禁忌についてと、具体的な運動内容についてご紹介します。運動の実施基準を把握しておけば、呼吸器疾患の患者さんにリハビリを行っていいかが明確となるでしょう。
目次
呼吸リハビリの目的
呼吸リハビリは、呼吸器に関係する疾患を抱えた患者さんが、今後の日常生活を安全に送れるようにするための治療法です。具体的な目的としては、以下の通りです。●気道内の分泌物を取り除くこと
●体内の換気機能の改善
●気道閉塞の改善
●呼吸困難の改善
●肺の合併症予防
●運動耐久性の改善
●廃用症候群の予防・改善
呼吸リハビリの禁忌
呼吸リハビリでは、患者さんの状態によっては実施してはいけない場合があります。ここでは、呼吸リハビリの禁忌や避けた方が望ましいケースについてご紹介します。呼吸リハビリの絶対的・相対的な禁忌
呼吸リハビリでの絶対的・相対的禁忌のケースは以下の通りです。【絶対的禁忌】
●コントロール不良なショック、高血圧症
●急性心筋梗塞
●重度の不整脈
●肺血栓塞栓症
●肺胞出血・喀血
●処置していない気胸
●不安定狭心症や重度の大動脈弁狭窄症
●重度な肝・腎機能障害
【相対的禁忌】
●循環状態が不安定な場合
●膿胸
●肺挫傷や多発肋骨骨折
●頸髄損傷後で損傷部が固定されていない状態
●脳外科手術後の頭蓋内圧が亢進している状態
●発熱している
●運動に支障のある整形外科疾患
●重度の認知障害・精神疾患
呼吸リハビリは身体に外圧を加えたり、体位変換によって循環を変化させたりするものです。そのため、上記のような不安定な状態のときはリハビリを避けましょう。
出典:呼吸不全における呼吸リハビリテーション
運動療法- | 呼吸リハビリテーション
呼吸リハビリを避けた方が良いケース
呼吸リハビリを避けた方がいいケースは以下の通りです。● 担当医あるいはリハビリ医の許可がない
● 過度の興奮によってこちらからの指示が通らない
● 運動時に協力が得られないほどの重度の意識障害
● 循環状態が不安定
● 強心薬・昇圧薬を服用した状態でも血圧が低い
● 体位変換だけでも血圧が大きく変動する
● 破裂の恐れがある未治療の動脈瘤がある
● コントロール不良の疼痛、頭蓋内圧亢進がある
● 頭部損傷・頚部損傷の状態が不安定
● 骨折部位の固定が不良
● リハビリ時にカテーテルや点滴のラインが十分に確保できない状態
● 離床時の安全性を確保できない状態
● 本人あるいはご家族の同意が得られていない
上記はとくに、状態が不安定な急性期でのリハビリ時に注意すべきポイントといえるでしょう。
出典:高齢者の呼吸リハビリテーション
呼吸リハビリ時の中止基準
リハビリ前、あるいは最中に患者さんの状態が変化したときに中止すべき基準は以下の通りです。【運動を行わない方がいいケース】
● 安静時の脈拍:120回/分以上
● 最小血圧:120mmHg以上
● 最大血圧:200mmHg以上
● 著明な不整脈が現れている
● 運動前から動悸、息切れがある
【途中で運動を中止すべきケース】
● 中等度の呼吸困難やめまい、嘔気が出現している
● 脈拍が140回/分を超えている
● 10回/分以上の期外収縮がや頻脈性不整脈、あるいは徐脈が出現している
● 最大血圧が40mmHg以上、または最小血圧が20mmHg以上上昇している
【運動をいったん中止して回復を待ってから再開するケース】
● 脈拍が運動時の30%を超えている(2分間安静しても10%以下に戻らない場合は運動中止するか軽負荷の運動に切り替える)
● 脈拍が120回/分を超えている
● 期外収縮が10回/分の頻度で出現している
● 軽い動悸や息切れがある
所属している医療機関の独自の基準がある場合、そちらに従って運動を中止するべきか判断しましょう。
出典:運動の実施基準
呼吸リハビリの適応
呼吸リハビリの適応として推奨されているのは、以下のような症例です。●症状のある慢性呼吸器疾患
●治療によって病状が安定している呼吸器疾患
●呼吸器疾患によって機能制限がある方
●呼吸リハビリの実施が困難となるような因子や合併症がない
●患者さん自身がリハビリを実施する意思がある
呼吸リハビリの対象として代表的な疾患には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)があります。その他にも、間質性肺疾患や気管支拡張症、気管支喘息などがあげられます。
呼吸リハビリで行う評価
呼吸リハビリの禁忌・適応を判断するためには、評価の実施が欠かせません。ここでは呼吸リハビリでの目標や問題点などを判断するのに必要な評価項目をご紹介します。必須の評価内容
呼吸リハビリを行ううえで必ずおさえておきたい評価内容は以下の通りです。●フィジカルアセスメント
●スパイロメトリー
●胸部のX線
●心電図
●安静時、活動時の呼吸困難の程度
●SpO2
●ADL
●活動可能な歩数
●6分間歩行
●握力
●栄養状態(BMI)
上記は呼吸器の状態だけでなく、心肺機能がどの程度なのかを把握するには欠かせない評価といえるでしょう。とくに呼吸状態やSpO2は、リハビリ中も適宜観察しておくことが大切です。
行うことが推奨される評価内容
呼吸リハビリで推奨されている評価は以下の通りです。●上肢・下肢の筋力
●ADL動作を実施するときのSpO2の状態
●活動量計(歩数計やカロリー測定器)
●呼吸筋の筋力
●栄養状態(体成分、代謝など)
●動脈血ガス分析
●心理社会的評価
●心肺運動負荷試験
●心臓超音波検査
上記は必須ではありませんが、リハビリを行ううえでの参考となるため、可能であれば評価を実施しましょう。上下肢の筋力は比較的容易に行える評価であり、リハビリの経過を把握する参考にもなります。
呼吸リハビリの内容
呼吸リハビリではどのような内容を実施するのでしょうか。ここでは具体的なリハビリ内容についてご紹介します。ポジショニング
ポジショニングでは、以下の2つの目的によって行われます。1.患者さんの安楽肢位をとるための調整
2.肺のうっ血や分泌物の貯留の防止
ポジショニングはおもに重度の患者さんに対して行われる場面が多いといえるでしょう。重度の患者さんは自力での体位変換がむずかしいので、定期的なポジショニングは重要です。また安楽姿勢の確保だけでなく、局所的な体圧の除去や関節可動域制限の予防、気道内の分泌物排出の促進なども期待できます。
コンディショニング
コンディショニングでは運動をする前の準備段階として実施されます。具体的な内容としては以下の通りです。●呼吸訓練
●リラクゼーション
●胸郭の可動域訓練
●ストレッチ
●排痰法
呼吸器疾患では、胸郭をはじめとした全身の柔軟性が低下していることが多いといえます。そのため、コンディショニングによって筋肉の柔軟性を高めておくと、その後の運動の効率アップにつながるでしょう。実際に、運動前のコンディショニングによって歩行時の低酸素血症の予防が期待できるという報告もあります。
出典:呼吸リハビリテーションに関するステートメント
運動療法
運動療法では以下の2種類のトレーニングを中心に行います。1.有酸素運動
2.筋力トレーニング
有酸素運動では運動耐久性の改善を目的として実施します。とくに下肢を中心としたトレーニングが推奨されており、おもな内容としては以下の通りです。
●ウォーキング
●エルゴメーター
●トレッドミル
ウォーキングは有酸素運動のなかでも気軽に行えるトレーニングでもあり、負荷も調整しやすいので、多くの患者さんに取り入れやすいです。筋力トレーニングでは筋肉量の増大を目的として、筋力が低下している部位を中心に行われます。
上肢のトレーニングは家事や入浴など、腕を使用した動作にともなう呼吸困難の軽減が期待できます。運動療法では、これら2種類のトレーニングを併用して行うことが大切です。
ADL訓練
ADL訓練では生活に必要な動作の獲得に加え、呼吸困難の軽減やQOL改善を目的として行われます。おもに以下の2種類のアプローチでADL訓練を進めていきます。1.筋力や柔軟性などの身体機能に対するアプローチ
2.本人にとって楽な動作練習と環境整備に関係したアプローチ
身体機能による問題でADLの獲得ができない場合は、「1」の方向性でリハビリを実施。一方で、十分な身体機能は持っているが動作や環境による工夫が必要な場合は、「2」を中心としたリハビリを行います。
時期による呼吸リハビリの流れ
呼吸リハビリは患者さんが疾患を抱えた時期によって注意すべき内容が変化します。ここでは時期にあわせた呼吸リハビリの流れについて解説します。急性期のリハビリ
この時期のリハビリでは、急性期呼吸器疾患や慢性期で症状が増悪した患者さんなどが対象となります。急性期でのリハビリを実施する目的は、長期臥床による合併症の予防や身体機能の維持・改善などです。急性期は疾患によって身体の状態が不安定なため、調子にあわせてリハビリをムリなく実施することが大切です。重症の場合は排痰や呼吸のサポート、ベッド上での他動・自動運動など、身体に負担のかからない程度のコンディショニングからはじめます。
回復期のリハビリ
回復期では身体の状態が急性期よりも安定してくる時期なので、少しずつリハビリの頻度や強度を高めていきます。以下のリハビリを中心に行い、少しずつ身体機能の改善を図ります。●歩行訓練
●筋力トレーニング
●有酸素運動
その他にも立ち上がりや移乗動作、トイレ動作などのトレーニングをして、ADLの自立を目指していきましょう。
維持期のリハビリ
回復期が過ぎて維持期(生活期)に差し掛かるタイミングのリハビリでは、以下の目的で実施します。●呼吸困難の軽減
●運動耐久性の向上
●身体機能の維持・向上
回復期での積極的なリハビリではなく、コンディショニングやADLトレーニングなどをバランスよく組み合わせて行います。筋力トレーニングと有酸素運動の強度に関しては、疾患の重症度にあわせて実施していきましょう。
呼吸リハビリを行う際のポイント
ここでは呼吸リハビリを行ううえでおさえておきたいポイントについて解説します。多職種と連携しながらリハビリを進めていく
呼吸リハビリを実施する際は、多職種と連携しながらリハビリを進めていくことが大切です。セラピストだけでなく、医師や看護師を含めたチーム医療として患者さんに関わり、スムーズに連携を取れるような体制を整えておきましょう。リハビリの方向性や今後の目標などに関しても、チームで情報共有をしながら決める必要があります。また、多職種でリハビリ前後の患者さんの情報についてやり取りしておくと、何か問題があった際でもすぐに対応ができるでしょう。
セルフマネジメントの指導も実施する
ただリハビリを行うのではなく、患者さん自身も疾患に関する知識を深めてセルフマネジメントに努めることが大切です。患者さん自身が疾患の知識を持っていないと、退院後の生活で何か問題が起きた際に対応できなくなります。また不適切な生活習慣を送ってしまい、症状の悪化につながる恐れもあるでしょう。そのような事態を防ぐためにも、入院中あるいは医療のサポートを受けている間に、セルフマネジメントの教育を行う必要があります。リハビリを並行しつつ、今後の生活で必要な情報の提供、動作の指導などを進めていきましょう。
呼吸リハビリの適応・禁忌を理解しておこう
呼吸リハビリを実施する際は患者さんの状態を確認しつつ、運動ができるかどうかを判断することが大切です。またリハビリ最中の状態の変化にも気をつける必要があります。呼吸器疾患の発症や増悪のタイミングでも行うべきリハビリ内容が変化するので、状態にあわせて適切なアプローチを心がけましょう。 呼吸器疾患の患者さんに対するリハビリの実施基準について、複雑でよくわからないセラピストはいるのではないでしょうか。呼吸リハビリには適応・禁忌が設けられており、患者さんの状態にあわせて運動をすべきか判断する必要があります。この記事では、呼吸リハビリでの適応・禁忌についてと、具体的な運動内容についてご紹介します。運動の実施基準を把握しておけば、呼吸器疾患の患者さんにリハビリを行っていいかが明確となるでしょう。関連記事
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