
リハビリの専門職である「言語聴覚士」とは、どのような職種なのかよくわからない方もいるのではないでしょうか。言語聴覚士とは、病気やケガで障害された「話す・聞く・食べる」などの機能の改善をサポートする職種です。言語聴覚士が活躍する範囲は広く、子どもから高齢者までさまざまな方と関わる機会があります。
この記事では、言語聴覚士の仕事内容や資格を取得するための流れなどについてご紹介します。言語聴覚士がどのような職種なのかを知ることで、自分がなりたい仕事のヒントになるでしょう。
目次
言語聴覚士とは
言語聴覚士とは、言葉によるコミュニケーションが困難な患者さんにリハビリを行い、改善をサポートする職種です。言葉によるコミュニケーションをとるには、「話す・聞く・考える」などのさまざまな機能が必要です。しかし、病気やケガを発症すると、コミュニケーションに必要な機能が障害されてしまうこともあります。言語聴覚士はそのような障害の原因や問題点を検査・評価し、症状に応じた適切なアプローチを行います。
またコミュニケーション面だけでなく、食べ物や飲み物をうまく飲み込むためのリハビリも行う機会も多いです。言語聴覚士がリハビリを行う対象者は、子どもから高齢者まで幅広いのも特徴です。
言語聴覚士の仕事内容
実際に言語聴覚士はどのような仕事をしているのでしょうか。ここでは言語聴覚士が行うリハビリについて解説します。言葉のリハビリ
病気やケガでうまく言葉を喋れない患者さんにリハビリを行います。喋れない原因は、声を出す機能が低下している「構音障害」や、声を出そうとしても言葉が浮かばない「失語症」などさまざまです。何が原因で言葉を出せないのかを検査・評価しつつ、発声練習や口を動かす練習などを行います。声を出すのがむずかしい場合、言葉以外のコミュニケーション手段を検討することもあります。
飲み込みのリハビリ
食べ物や飲み物をうまく飲み込めない患者さんに対してリハビリを行います。飲み込みがうまくいかない原因としては、脳の障害や加齢などによる嚥下機能(飲み込むための機能)の低下があげられます。嚥下がうまくいかないと、食べ物が口からこぼれたり、むせやすくなったりするでしょう。むせ込みが続いて食べ物が気管に入ると、肺炎を発症してしまう恐れもあるのです。うまく飲み込みを行えるように、口・舌を動かす運動や飲み込むときの反射を高めるリハビリを行います。
聴覚のリハビリ
聴覚に障害を抱える患者さんにリハビリを提供します。聴覚の障害は生まれつき持っている方もいれば、事故や加齢による影響で発症する方もいます。日常生活に支障をきたしているほど聴力が低下している場合は、補聴器や人工内耳を使用するケースもあるでしょう。その他にも、テキストや手話などの言語を使用しないコミュニケーション手段を活用することもあります。
高次脳機能のリハビリ
高次脳機能の障害を抱えている患者さんにリハビリを行います。高次脳機能とは、人が持っている高度な機能のことを指す言葉です。病気やケガによって脳を損傷すると、以下のような高次脳機能障害が現れることがあります。● 記憶障害:新しい出来事を覚えられず、すぐに忘れてしまう
● 注意障害:うまく集中できず、ボーッとしてしまう、注意が散漫となる
● 遂行機能障害:自分で計画したり、それをうまく実行したりできなくなる
● 社会的行動障害:感情を抑えられず、すぐに大声を出す、暴力を振るうなどしてしまう
その他にも、言葉のリハビリで説明した「失語症」も高次脳機能障害の1つです。どの高次脳機能が障害されているのかを検査・評価したうえで、それぞれの症状にあわせたリハビリを提供します。
理学療法士・作業療法士との違い
言語聴覚士と同じリハビリ専門職として、理学療法士と作業療法士という職種があります。どの職種もリハビリを提供することは同じですが、それぞれ役割が異なります。言語聴覚士は「話す・聞く・食べる」などのサポートをする一方、理学療法士は「歩く・立つ・座る」といった基本的な動作の獲得がおもな目的です。リハビリ内容も歩行練習や筋力トレーニングなど、身体をアクティブに動かすようなプログラムが多い傾向にあります。作業療法士はおもに社会復帰・生活復帰のために、応用的な動作獲得を目的にリハビリを行うのが特徴です。必要に応じて公共交通機関を利用するための動作、パソコン作業などの練習をします。
このように、それぞれのリハビリ専門職によってアプローチ方法が異なることがわかります。
言語聴覚士になるには
言語聴覚士は「国家資格」なので、誰でもすぐになれるわけではありません。ここでは言語聴覚士になるまでの流れについて解説します。学校・養成所に入学・卒業する
まずは大学や専門学校などに入学し、法律に定められた教育課程を経てから卒業する必要があります。基本的に3〜4年制の大学や専門学校に通う必要がありますが、大学卒業者は2年間でも卒業可能です。言語聴覚士に必要な科目を習得している場合は、1年間で卒業できる学校もあります。学校では、言語聴覚士になるために必要な知識・スキルを身につけるだけでなく、実際に医療機関で実習を行います。学校の卒業ができれば、国家資格を取得するための「国家試験」の受験資格が得られるのです。
国家試験に合格する
大学や専門学校を卒業したら、国家試験に合格する必要があります。言語聴覚士の国家試験は、これまで毎年2月に行われています。試験内容は筆記試験で、午前・午後で各100点の計200点の問題です。合格基準は基本的に200点中120点とされており、合格率は毎年60〜70%ほどとなっています。このように、言語聴覚士の国家試験は決して簡単ではないことがわかるでしょう。学校では最終学年になると国家試験対策に向けた準備をするので、その期間で勉強を怠らないようにすることが大切です。
言語聴覚士の給料
令和3年度の調査によると、言語聴覚士全体の年間給与は平均で423万円 という結果でした。全体の給与所得者の年間給与は平均で443万円 なので、比較するとほとんど同じかやや低い傾向にあります。しかし、言語聴覚士は国家資格のため、就職・転職に困りにくく、安定して働きやすいメリットがあります。言語聴覚士の年齢別の年間平均給与は以下の通りです。
年齢 | 年間の平均給与額 | 月額に換算した給与額 |
20〜24歳 | 約329万円 | 約27万円 |
25〜29歳 | 約380万円 | 約32万円 |
30〜34歳 | 約414万円 | 約35万円 |
35〜39歳 | 約437万円 | 約36万円 |
40〜44歳 | 約487万円 | 約41万円 |
45〜49歳 | 約516万円 | 約43万円 |
50〜54歳 | 約539万円 | 約45万円 |
55〜59歳 | 約575万円 | 約48万円 |
60〜64歳 | 約479万円 | 約40万円 |
65〜69歳 | 約357万円 | 約30万円 |
賃金構造基本統計調査 / 令和3年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種(職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
民間給与実態統計調査
言語聴覚士が活躍できる就職先
言語聴覚士が活躍できる就職先は、おもに以下の通りです。● 病院
● 老人保健施設
● 特別養護老人ホーム
● 通所系サービス
● 訪問系サービス
● 障害福祉センター
● 小児療養センター
● 特別支援学校
● 養成校
● 研究施設
このように、言語聴覚士は子どもから高齢者までの幅広い層に需要があります。言語聴覚士は医療機関で働くケースが多いですが、それ以外にも福祉や教育機関でも求められています。今後も高齢化社会にともなって、さらに言語聴覚士のニーズが増えていくと予想されるでしょう。
言語聴覚士に向いている方
言語聴覚士の職業はどのような方が向いているのでしょうか。ここでは向いている方の特徴について解説します。人とのコミュニケーションが好きな方
人とのコミュニケーションをとることが好きな方は言語聴覚士に向いています。言語聴覚士は、1対1で患者さんたちにリハビリを提供する機会がよくあります。リハビリを円滑に進めるためには、信頼性の確保が重要です。患者さんとうまくコミュニケーションがとれないと、思うようなリハビリの効果を得られないこともあります。話すことが得意でなくとも、じっくりと聞ける方であれば患者さんも安心してリハビリができるでしょう。
人の悩みや不安に寄り添える方
人の悩みや不安に寄り添うことも、言語聴覚士の仕事を行ううえで重要です。コミュニケーションが得意だとしても、相手の気持ちを理解して親身に対応できないと、良好な関係を継続できなくなります。その結果、リハビリもうまく進まなくなるケースもあるでしょう。患者さんの悩みや不安に共感し、どのようにアプローチをすれば良いのかを考えられれば、適切なリハビリを行いやすくなります。また、患者さんからの信頼性も高まり、良い関係性を作れるでしょう。
国家資格を取得して仕事をしたい方
国家資格を取得して安定して仕事をしたい方にも、言語聴覚士はおすすめです。国家資格を取得しておけば、ひとまず仕事に困ることは少なくなり、安定した給料を得られるでしょう。リハビリ職は夜勤での勤務はほとんどないため、ライフワークバランスを取りやすいのも大きなメリットです。また、産休・育休制度によって、男性だけでなく女性でも働きやすい環境が整っている職場も少なくありません。資格を取得して誰かの役に立つ仕事を安定して続けたい方は、言語聴覚士に向いています。
子どものリハビリに興味がある方
子どもに対して興味がある方も、言語聴覚士に向いているかもしれません。言語聴覚士は職場によっては高齢者だけでなく、子どもにリハビリや教育を行うこともあります。小児をあつかっている病院や特別支援学校など、その種類もさまざまです。子どもの発達や障害に対してリハビリを提供することで、その後の成長に大きく関わることもできます。子どもに関係する仕事をしてみたいと思っている方は、ぜひ言語聴覚士を目指してみましょう。
言語聴覚士を目指す際に準備しておきたいこと
言語聴覚士を目指して大学や専門学校に入学する前に、どのような準備をしておくべきでしょうか。ここでは準備しておきたいポイントについて解説します。身体の構造について勉強しておく
身体の構造について勉強しておくことをおすすめします。言語聴覚士でリハビリをするためには、人の身体の構造やメカニズムについて理解しておくことが重要です。実際に、学校の授業では「解剖学」や「生理学」などで人の身体に関する知識を学びます。解剖学や生理学の知識は入学中だけでなく、臨床でも必要となる知識なので、事前に勉強しておくと良いでしょう。勉強については、入門的な参考書や動画などでもかまいません。あらかじめ知識を入れておくと、入学後の授業もスムーズに頭に入りやすくなります。
コミュニケーションスキルを身につけておく
コミュニケーションスキルを身につけておくと良いでしょう。言語聴覚士は患者さんやスタッフと関わる機会が多いため、コミュニケーションスキルは重要です。コミュニケーションスキルを身につけるには勉強やアルバイトなど、さまざまな方法があります。アルバイトをする場合は、人と接する機会が多いものを選ぶのをおすすめします。患者さんとの関係性を良好に保ち、適切なリハビリをするためにも、コミュニケーションスキルを養っておきましょう。
言語聴覚士がどのような職業なのかを知ろう
言語聴覚士はコミュニケーションや食事に必要な機能をサポートするための職種です。同じリハビリ職には理学療法士や作業療法士があり、それぞれ異なる役割を持って患者さんにアプローチします。言語聴覚士は国家資格なので、大学や専門学校に入学した後に国家試験に合格する必要がある点には注意しましょう。言語聴覚士は子どもから高齢者までの幅広い層と関わることもあり、多くの場所で活躍が期待できます。今回の記事で興味を持った方は、ぜひ言語聴覚士を目指してみましょう。関連記事
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