腱板断裂になったときのリハビリ内容は?日常生活での注意点もご紹介
腱板断裂になったときのリハビリ内容は?日常生活での注意点もご紹介
更新日:2023年06月05日
公開日:2023年06月05日

肩の違和感が原因で「腱板断裂」と診断された後、どのようなリハビリを行うのかよくわからない方もいるのではないでしょうか。この疾患は高齢者でよくみられる疾患であり、肩の痛みが現れるのが特徴です。リハビリでは関節可動域訓練や筋力トレーニングなどを中心に行い、症状の悪化を防ぎます。この記事では実際のリハビリ内容や日常生活での注意点などをご紹介します。腱板断裂の症状を理解して、効率的に治療を進めていきましょう。
目次
腱板断裂とは
腱板断裂とはどのような疾患なのでしょうか。ここでは腱板の役割や断裂する原因などについて解説します。腱板は肩を支える役割がある
腱板とは筋肉の末端にある「腱」が集まって板のように広がったもので、肩関節を支えて安定性を高める役割があります。筋肉には柔軟性がありますが、末端の腱は硬い線維でできています。硬さに関しては「アキレス腱」をイメージするとわかりやすいでしょう。この腱板は、以下の4つの筋肉の腱からできています。● 肩甲下筋(けんこうかきん)
● 棘上筋(きょくじょうきん)
● 棘下筋(きょっかきん)
● 小円筋(しょうえんきん)
これらの筋肉は肩の深部についているため、「インナーマッスル」とも呼びます。それぞれの腱が肩関節を覆うように付くことで、肩の動きをスムーズにしたり、脱臼を防いだりする働きがあるのです。この腱板がなんらかの原因によって損傷して引き起こされるのが「腱板断裂」です。
腱板断裂の種類
腱板断裂は損傷の程度によって「完全断裂」と「部分断裂」に分類されます。完全断裂は、一部の腱板が切れて離れることです。腱板は複数の筋腱なので、すべてが完全に断裂するケースはほぼないでしょう。一部の腱板が切れるのが部分断裂で、部位によって以下の種類に分かれます。● 関節方面断裂:関節内での腱の損傷
● 滑液包面断裂:関節外からの損傷
● 腱内断裂:上記2つの中間の状態
腱板断裂のなかでも重症度は異なるので、その種類に応じた治療が必要となります。
おもな症状は肩の痛み
腱板断裂の代表的な症状は腕を動かすときや夜間時の肩の痛みです。肩以外にも腕の痛みが現れるケースもあります。ただし、腱板断裂が起こっても他の筋肉がサポートすることによって肩自体は動かせる場合が多いです。 それは表層部にある「アウターマッスル」と呼ばれる筋肉が変わりに働いてくれるからです。しかし、損傷した腱板が骨に引っかかったり、炎症が強かったりする場合は、痛みが強いため肩を上げられないこともあります。
腱板断裂の原因
腱板断裂の原因には、おもに「高齢による筋肉の衰え」と「ケガまたは肩の使い過ぎ」によるものです。加齢によって筋肉が衰えると、血流の循環が悪くなるのに加えて、腱板も弱りやすくなります。肩の使いすぎも同様に、少しずつ腱板が擦れて弱くなることがきっかけで断裂を引き起こしやすくなります。ささいなきっかけで損傷が起こることも多く、知らないあいだに損傷していた、というケースもあるのです。また、腱板断裂は珍しいものではなく、高齢者にとってはよくみられている疾患でもあります。実際に、国内の調査によると70代の約半分の方に腱板断裂が発見されたという報告もあります。
腱板断裂と四十肩・五十肩の違い
類似した疾患として「四十肩・五十肩」があります。それぞれの違いとしては以下の通りです。● 腱板断裂:痛みがあっても腕が上がることが多い
● 四十肩:痛みに加えて肩も上がりにくい
腱板断裂は深部の筋腱が損傷しても、表層部の筋肉によって腕を上げられます。四十肩は肩関節自体が硬くなりやすい疾患なので、筋力だけでは腕を上げるのが困難です。その他にも、腱板断裂は明らかきっかけがあるのに対して、四十肩・五十肩の原因は基本的に不明瞭です。
それぞれの疾患には明確な差がありそうですが、実際に症状だけで見分けるのは困難といえます。疾患を見分けるためには、治療の反応を見たり精密検査をしたりなどをする必要があるでしょう。
腱板断裂の評価方法
腱板断裂は問診や超音波、MRIによる画像検査などの診断によって判断しますが、その他にも肩の動きによって評価します。ここでは、筋力や肩の痛みによって判断する評価方法についてご紹介します。筋力評価
腱板断裂では肩の深部の筋肉が弱くなっている可能性があるため、筋力低下がみられていないかを評価します。【棘上筋】
1. 腕をまっすぐ上げて、約30度外に広げる
2. 手の甲を上(あるいは手のひらを上)にする
3. 腕を上げる力に対して、評価者は腕に抵抗を加える
棘上筋の筋力評価です。手の甲が上、手のひらが上の2種類で抵抗をかけて筋力を調べます。抵抗をかけたときに腕が下がってしまったら筋力が低下している可能性があるため、棘上筋の腱板断裂を疑います。
【棘下筋】
1. 腕を下げた状態で肘を90度曲げる
2. 肘を身体につけたまま、手を外側に動かす
3. 左右の開き具合を調べる
棘下筋の筋力低下を評価する方法です。このとき反対の手と比べて開き具合が悪かった場合、筋力低下を疑います。
【肩甲下筋】
1. 背中に手を回す
2. 手の甲を前側にして、背中を離した状態を保つ
3. このときに保っているかを調べる
肩甲下筋の筋力を評価する方法です。肩の痛みが生じる場合でも腱板断裂を疑います。
肩の痛みの診断テスト
筋力の他にも、肩の痛みを診断するテストによって腱板断裂を評価します。【インピンジメントサイン】
1. 評価者が肩甲骨を持ち上げながら腕を横に広げる
2. 手の甲を上にした状態で少しずつ上に持ち上げる
3. 腕が90度広げたあたりで痛みの有無を調べる
肩関節のインピンジメント(ぶつかり)での痛みを調べる評価方法です。この手順で痛みが現れたら腱板断裂の疑いがあります。
【ペインフルアークサイン】
1. 自分の力で少しずつ腕を横に広げる
2. 腕を広げたときの肩の痛みを調べる
この評価では、棘上筋の腱板断裂が起こっていれば60〜120度の範囲で痛みがともないます。このように1つの評価を頼りにするのではなく、それぞれの診断を行って総合的に判断します。
腱板断裂の治療方法
実際に腱板断裂にはどのような治療が行われるのでしょうか。ここで治療方法についてご紹介します。保存療法
手術以外で腱板断裂の症状悪化を防ぐ方法が保存療法です。肩の痛みを軽減し、筋力や可動域の維持・改善に努めるのが保存療法のおもな目的です。保存療法のおもな内容は「運動療法(リハビリ)」と「薬物療法」があげられます。慢性的な腱板断裂、あるいは部分的な断裂の場合、手術療法よりも保存療法が優先的に行われます。ただし、保存療法では断裂した腱板が自然と修復されることは基本的にありません。あくまでも症状をおさえるための手段であり、断裂した状態を治すものではない点を理解しておきましょう。症状が進行したり、断裂の具合が広がったりした場合は、手術による治療が必要です。
手術療法
外科的手術によって根本的な治療をする方法が手術療法で、おもに「腱板修復術」と「人工関節置換術」の2種類があります。 腱板修復術は、骨から剥がれた腱板をつなげる手術方法です。筋肉を大きく切る必要はないため、関節周りの組織に与えるダメージが少ないのが特徴です。人工関節置換術は肩関節を人工物に変える手術法で、腱板がなくても安定して肩を動かせる効果が期待できます。人工関節置換術は腱板断裂が進行しており、修復術では治療が難しい方が対象です。
腱板断裂に対してのリハビリ内容
腱板断裂のリハビリ内容は、おもに「可動域訓練」と「筋力トレーニング」の2種類です。実際にこれらのリハビリによって、腱板断裂の方の75%が肩の痛みの軽減、日常生活に関わる動きの改善につながったという報告もあります。 ここでは、腱板断裂のリハビリ内容についてご紹介します。可動域訓練
腱板断裂では痛みによって筋肉が緊張したり、動かすのを避けたりする影響で肩の可動域制限を引き起こすことがあります。そのため筋肉や関節包のストレッチなどを行い、肩の可動域を改善させて生活に支障をきたさないようにします。ただし、ストレッチによって強い痛みが出てしまうと、かえって筋肉の緊張が高まって逆効果となる場合もあるでしょう。可動域訓練を行う際は、肩に余計な力が入らないように愛護的に動かしていきます。筋力トレーニング
腱板断裂によって弱まったインナーマッスルを鍛えるために、筋力トレーニングを行います。肩を大きく動かすような運動をすると、インナーマッスルよりも表層のアウターマッスルが優位に働いてしまいます。アウターマッスルを中心に鍛えてしまうと関節が不安定となり、余計に腱板に負担がかかってしまうので注意が必要です。インナーマッスルを鍛えるにはダイナミックな動きではなく、細かな運動を行うことが重要です。腱板断裂の手術後のリハビリ
腱板断裂は重症度によっては手術が必要となります。ここでは腱板断裂の手術後のリハビリの流れについてご紹介します。手術後のリハビリの流れは医療機関によって異なる
手術後のリハビリのプロトコル(スケジュール)は、各医療機関によって異なります。手術後は肩の痛みが出やすいので、三角巾やアームスリングなどの装具で固定しつつ、ムリのない範囲で肩の可動域を広げていきます。その後、痛みの具合をみながら少しずつ自分で肩を動かす運動をはじめるのが基本的な流れです。リハビリ期間は4か月から半年間程度を目安にしておきましょう。手術後のスケジュールの例としては、以下の表の通りです。
術後の期間 | 肩のリハビリ内容や制限など |
1日目 | 痛みが出やすい時期なので、腕を動かしてもらいながらリハビリを行います。 自分の力で肩を動かすのは避けましょう。 |
7日目 | 肩を動かす範囲を広げていきます。 筋力トレーニングも開始していきます。 |
21日目 | 手術による創部や肩の可動域に問題がなければ、医療機関を退院して通院によるリハビリを開始します。 状態に応じて肩の装具を外します。 |
28日目 | 肩を全方向に動かすリハビリを開始します。 |
35日目 | 経過が良好であれば日常生活での制限がなくなります。 |
2か月目 | デスクワークやウォーキングなどの軽い作業・運動の制限がなくなります。 |
4〜6か月目 | リハビリが終了します。 |
手術後のリハビリは無理しないことが大切
手術してから直後の時期は腱板をつなぐ部分が弱く再断裂の危険性があるので、ムリをしない範囲でリハビリを進めていくことが大切です。研究によると、もともとの損傷の程度が大きいほど再断裂率は高まるといわれています。 また、手術後の傷口からウィルスが侵入し、感染するリスクもあります。傷口に異常を感じたり、膿んでしまったりしている場合は早めに医師に相談しましょう。腱板断裂後の生活で注意したいポイント
腱板断裂をした方は、リハビリだけでなく普段の生活の仕方にも気をつける必要があります。ここでは、腱板断裂後の生活で注意したいポイントについて解説します。重いものを持ち上げない
重いものを頭の上まで持ち上げると腱板に負担がかかりやすいので控えましょう。重いものでなくても、肩を頻繁に上げるような動きは意識して避けることをおすすめします。食器を上にある棚に戻したり、洗濯物を干すために腕をあげたりなどの動きを繰り返し行わないように気をつけてください。頭の後ろで腕を動かさない
頭の後ろに手を回すような動きも腱板に負担をかける恐れがあるので避けましょう。頭の後ろで手を回す動きの例として、髪を結んだりネックレスをつけたりなどの動作が当てはまるでしょう。そのような動作を行う場合は、自分で行うのではなく誰かにやってもらうといった工夫が必要です。寝るときに肩の下にクッションを置く
寝るときは肩に負担がかからないように、断裂した方の下にクッションやタオルを置きましょう。仰向けに寝ると肘が下がるにともなって、肩関節も落ち込んで腱板に負担がかかります。また、背中が丸まっている方は肩が前に出やすいので、余計に肩の筋肉が緊張して痛みが出やすくなるのです。クッションやタオルを肩の下に置けば、肘と肩関節の角度が直線になり、腱板の負担が少なくなります。腱板断裂の症状を理解して安全にリハビリを行おう(まとめ)
腱板断裂は、まずはリハビリをはじめとした保存療法を行い症状の悪化を防ぎます。リハビリでは関節可動域訓練や筋力トレーニングによって、肩の動きの制限や筋肉の衰えを予防することが大切です。腱板断裂の状態によっては手術療法を行い、術後はリハビリによる機能回復を目指します。またリハビリ以外でも、日常生活での暮らし方に注意して症状を悪化させないように意識しましょう。関連記事
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