
病気のなかでも危険とされる脳卒中。もし家族の誰かが急に脳卒中になったら、どのような対応をすればいいのでしょうか。また病院でどのようなことを行うのか、イマイチわからない人は多いと思います。
今回は脳卒中の概要や、病院で行うリハビリについてご紹介します。
目次
脳卒中とはどんな病気?
脳卒中とは脳の血管がやぶれたり、詰まったりすることでさまざまな症状が現れる病気です。 厚生労働省の統計によると、昭和55年までは死因の1位が脳血管疾患(脳卒中)であり、令和2年の時点では4位です。
医療技術の進歩にともない、少しずつ死亡率は減少していますが、それでも脳卒中は多くの人が起こりうる病気といえます。こちらではさらに脳卒中について深掘りしていきます。
出典:令和2年(2020) 人口動態統計月報年計(概数)の概況
厚生労働省:死因順位(第5位まで)別にみた死亡数・死亡率(人口10万対)の年次推移
脳梗塞・脳出血・くも膜下出血に分かれる
脳卒中には以下の3つに大きく分けられます。・脳梗塞
・脳出血
・くも膜下出血
脳梗塞は、血栓により血管が狭くなる、あるいは詰まることで発症します。さらに脳梗塞のなかでも、原因によっていくつかの病型に分かれます。脳の中心にある血管が詰まると広範囲に障害をきたし、重症となることもある病気です。
脳出血は、脳内の細い血管が出血して発症する病気です。出血した周囲が血液に圧迫されることで、さまざまな症状を引き起こします。
くも膜下出血は、動脈が破裂して「くも膜下腔」と呼ばれる空間に血液が溜まることで発症する病気です。病気の前兆として、激しい頭痛や意識障害が起こることが特徴です。
このように、脳卒中にはさまざまな種類の病気があることがわかります。
脳卒中の症状
脳卒中はおもに以下のような症状があげられます。・片方の手足が動かない、しびれる
・顔の半分が動かない、しびれる
・片方の目が見えない
・ろれつが回らず声を出しにくい
・他の人の言葉が理解できない
このように、頭だけでなく「手足・顔・言葉」に関係した症状が現れるのが特徴です。脳は部位ごとに機能が異なるので、障害を受けた場所によって症状が変わります。脳卒中になったとしても、上記の症状がすべて起こるわけではありません。
これらの症状は後遺症として残る可能性が高いです。その他にも脳卒中の前兆として急な頭痛やめまい、舌がもつれるなどの症状も現れる場合があります。
脳卒中の原因
脳卒中の1番の原因は高血圧といわれています。血圧が高くなると血管に傷がついて、脳出血やくも膜下出血を引き起こします。また血管のストレスが増えると動脈硬化(血管が硬くなること)となり、脳梗塞につながるのです。その他の原因として以下があげられます。・不整脈
・糖尿病
・肥満
・喫煙
・飲酒
このように、脳卒中の原因は生活習慣に大きく関わるものが多いことがわかります。どれも食生活や運動不足によって引き起こされるので、生活習慣を整えることが脳卒中の予防につながります。脳卒中だけでなく他の病気でも共通するので、あらためて生活習慣を見直してみましょう。
脳卒中の診断・評価
脳卒中は問診や頭部MRI・CTの画像検査で診断を行います。MRIでは脳梗塞や脳腫瘍などを、CTでは脳出血やくも膜下出血を見つけるときに役立つ診断方法です。その他にも以下の検査を行います。・採血
・心電図
・レントゲン
・心エコー検査
リハビリを実施するときは症状の程度を検査するために、手足の動きにくさや高次脳機能の程度を調べます。高次脳機能とは言葉を理解する、記憶するなどの、人間が持っている高度な機能のことです。手足・顔の動きだけでなく、内面にも障害が出ている可能性を考慮して、あらゆる角度から評価を行います。
脳卒中になったときは?
脳卒中は急に発症することが多いです。そのため「ちょっとおかしいな……」と思ったら、すぐに救急車を呼びましょう。こちらでは脳卒中になったときの対応について説明します。脳卒中は早期のリハビリが大切
脳卒中で救急搬送されたら、その後病院で入院することになるでしょう。入院中は退院後も安全に日常生活を送れるように、早期からリハビリテーション治療を行います。「脳卒中治療ガイドライン」によると、脳卒中の発症直後からリハビリテーションを実施することが推奨されています。おもな理由は以下のとおりです。・入院中の寝たきりを避けて、体力の低下を防ぐ
・脳卒中で障害を受けた機能の改善につながる
早期のリハビリは体力低下の予防だけでなく、予後にも大きく関係するほど重要です。「脳卒中リハビリテーション患者の早期自立度予測」では、発症時期にあわせた生活動作の自立度で予後がある程度判断できるといわれています。生活内の介助量が少なければ、その分予後は良好と予測されます。
このように、予後の面からみても入院直後からリハビリを行うことが大切です。
出典:Ⅶ.リハビリテーション - 日本神経治療学会
脳卒中リハビリテーション患者の早期 自立度予測 - J-Stage
脳卒中のリハビリ期間の目安
脳卒中のリハビリ期間の目安は、病院の種類と症状の程度によって異なります。たとえば、発症直後に入院する急性期病院でのリハビリ期間は数週間程度です。その後も治療が必要と判断されて回復期病院に転院した場合、長くて6か月間リハビリを行います。またデイサービスや訪問看護サービスでもリハビリを受けられるので、退院後も希望にあわせて治療の継続が可能です。
症状が軽くリハビリの必要性が少ないと判断されれば、急性期病院に入院したあとすぐに退院する人もいるでしょう。そのためリハビリを行う期間に明確な基準はありません。
脳卒中のリハビリの流れ
脳卒中のリハビリはおもに3つの時期に分けられています。・急性期
・回復期
・維持期
これらの時期にあわせて病院へ入院したり、サービスを利用したりします。こちらでは時期によるリハビリの流れについて説明します。
急性期でのリハビリ
急性期では脳卒中が発症、あるいは治療後の人に対してリハビリを行う時期です。脳卒中直後で身体の状態が不安定のため、積極的なリハビリは行わずに身体機能の低下の防止につとめます。おもなリハビリ内容は以下のとおりです。・手足の関節を動かす
・ベッド上で手足の運動を行う
・ベッドから起き上がる
・ベッドから車椅子に移る
このように、ベッドサイドを中心にムリのない範囲でリハビリを進めます。
回復期でのリハビリ
回復期では本格的にリハビリを開始し、身体機能の改善や日常生活に必要な動きの獲得を目指す時期です。この時期は身体の状態が安定してくるため、さまざまなリハビリが実施されます。リハビリ内容は歩く練習や応用動作の練習、発声練習など、その種類は多岐にわたります。維持期でのリハビリ
維持期ではリハビリによって改善した機能が低下しないように、維持を図る時期です。回復期病院から退院すると、これまで行っていたリハビリの時間がなくなります。そのため、なにも運動をしていないと身体機能が低下する危険性があります。退院後も自宅で運動や散歩をしたり、デイサービスなどを利用したりして、日常生活のなかにリハビリを取り入れることが大切です。脳卒中の人は、病院を退院することがゴールではありません。むしろ退院してからが、新たなスタートといってもいいでしょう。
脳卒中のリハビリ方法
脳卒中の人のリハビリでは、以下の3つの方法で治療を行います。・理学療法
・作業療法
・言語聴覚療法
こちらではそれぞれの具体的な内容を説明します。
理学療法では歩く練習や筋トレを行う
理学療法では歩く練習や筋力トレーニングなど、身体的な機能に対してのリハビリを中心に行います。脳卒中の影響で身体が動きにくい場合は、足を固定する装具を使用して、歩く練習を行います。その他にも起き上がる、立つ、座るなどの動作も並行して練習することが多いです。理学療法に限らず、患者様全員に共通して同じリハビリを行うわけではありません。
まずは脳卒中の症状はどの程度か、筋力や関節はどのくらい動くかなどを細かく評価したあとに、その人にあわせたリハビリを実施します。
作業療法では日常生活の動きの練習を行う
作業療法では手を使った練習や応用動作の練習など、生活に必要な動作のリハビリを中心に行います。手を使った練習では、手芸や服のボタンをかける、ヒモを結ぶといった、細かい動きの獲得を目指します。また食事の姿勢や入浴時の動きを確認し、改善のためのアドバイスを行いつつ身体機能の強化を図るケースも多いです。リハビリの区別がピンとこない人は、理学療法のイメージが「足」、作業療法は「手」というイメージを持つとわかりやすいかもしれません。もちろん作業療法でも足に対してリハビリを行うケースもあり、逆も同様です。共通しているのは、患者様にとってなにが大切かを評価し、それにあわせてリハビリを実施することです。
言語聴覚療法では食事や発声の練習を行う
言語聴覚療法では発声練習や飲み込みの運動、脳トレなど、頭・顔に関係したリハビリを中心に行います。飲み込みの運動では内視鏡やX線で嚥下機能を評価して、その人に適した食事形態で練習を行います。高次脳機能が障害されると物忘れが多い、注意がそれやすいなどの症状が現れることも珍しくありません。同じ動きの練習やプリントの計算問題を行い、記憶の定着、集中力の向上につなげます。
脳卒中のリハビリの中止基準について
脳卒中は早期から積極的にリハビリを行うことが望ましいですが、状態によっては実施できないケースもあります。リハビリを中止する基準には以下の状態があげられます。・意識がもうろうとしている
・安静時の脈拍が120回/分以上
・最大血圧が180mmHg以上
・最小血圧が120mmHg以上
・37.5℃の発熱がある
・呼吸数が30回/分以上
・運動が困難となるほどの不整脈が現れている
・安静時の状態でも動悸や息切れがある
・動くときに心臓の痛みがある
このような状態がみられたときは、リハビリを中止するか医師に相談したうえで続行するかを検討します。
出典:脳梗塞のリハビリテーション治療 - J-Stage
脳卒中に対して家族ができること
脳卒中を発症して入院するとなると、その家族も不安になるでしょう。できることがあれば力になりたいと思っている人も多いと思います。こちらでは、脳卒中に対して家族ができることをご紹介します。脳卒中について勉強してみる
家族が脳卒中になったら、その病気について調べてみることをおすすめします。どのような症状が現れるのか、後遺症は残るのかなどの知識を知っておくと、脳卒中への理解が深まります。実際にどんなサポートができるのかが明確になりやすく、なによりも心の準備にもなるでしょう。今後介護の準備が必要になった場合でも、早めの対処がしやすいです。病院内での関わり
病院内でできることには「定期的に面会に行く」「可能ならリハビリに参加する」などがあります。家族もそうですが、当事者の患者様も急な病気でメンタルが低下している可能性が高いです。病院のスタッフもできる限りのメンタルケアを行いますが、やはり家族のサポートは必要不可欠です。可能なら定期的に面会を行なって、そばにいてあげてください。またリハビリの見学が可能な病院であれば、一緒に参加することで患者様のはげみになります。家族がいれば患者様もリハビリに対して前向きになりやすいので、スタッフとしてもありがたいことです。
在宅での関わり
退院後の在宅での関わりが一番重要です。病気の再発や身体機能の低下を防ぐために、生活習慣のサポートをしてあげましょう。運動の手助けをしたり、服薬管理したりなど、やるべきことは多いです。また介護保険の申請を行っていれば、訪問看護やデイサービス、福祉用具のレンタルなどが利用できます。家族だけのサポートだけでは限界があるので、ムリせずサービスをうまく活用してみましょう。
脳卒中はリハビリを行うタイミングが重要
脳卒中はいつ発症するか予測ができず、後遺症も残りやすい病気です。しかし早期のタイミングでリハビリを行うことで、改善につながる可能性は高まります。家族との関わりも、患者様にとって大きな心の支えになるでしょう。家族も不安だと思いますが、可能な範囲でサポートしてあげることが大切です。関連ジャンル
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