腱板損傷のリハビリテーションには要注意!運動時の禁忌事項を解説
腱板損傷のリハビリテーションには要注意!運動時の禁忌事項を解説
更新日:2023年08月31日
公開日:2023年08月17日

腱板損傷になったときに、どのような動きに気を配ればいいのかよくわからない方は多いのではないでしょうか。日常生活や自主的なリハビリで腱板への負担が強い動きをしていると、さらに症状が悪化する恐れがあります。この記事では腱板損傷でしてはいけない動きや、自宅で安全にできるリハビリ内容についてご紹介します。禁忌事項をおさえておけば、腱板に強い負担をかけることなくリハビリを進められるでしょう。
目次
腱板損傷のリハビリの目的
腱板損傷とは、肩関節をサポートしている以下の4つの筋肉が傷つく疾患です。● 棘上筋(きょくじょうきん)
● 棘下筋(きょっかきん)
● 小円筋(しょうえんきん)
● 肩甲下筋(けんこうかきん)
これらの筋肉をまとめて「腱板」とよび、肩関節を支えたり、動かしたりするときの安定性を高める役割があります。腱板損傷は、肩の使いすぎや外傷などがおもな原因です。この腱板損傷によって起こる肩の不安定さや筋力低下を防ぐために、リハビリが行われます。ここでは「保存療法」と「手術後」としてのリハビリの目的について解説します。
保存療法で行うリハビリの目的
保存療法とは、手術以外で肩の痛みの軽減や筋力、可動域の維持・改善を図る方法です。保存療法で行われるリハビリの具体的な目的は、以下の通りです。● 肩関節の機能の維持
● 痛みによる肩周囲の筋肉の癒着予防
● 損傷していない筋肉や腱の機能向上
● 腱板に負担のない動きの獲得
ストレッチや運動だけでなく、薬を服用して痛みをコントロールしながらリハビリを進めていきます。ただし、保存療法は腱板損傷の根本的な治療法ではありません。症状を悪化させないための治療法なので、生活に支障が出るようでしたら手術を検討する必要があります。
手術後に行うリハビリの目的
保存療法では効果がみられず、痛みが続く場合は手術での治療を検討します。手術後に行われるリハビリの目的は以下の通りです。● 腱板の機能の再獲得
● 修復した腱板の再断裂の防止
● 肩関節の機能の再獲得
● 肩関節の可動域の改善
● 夜間痛、安静時痛の改善
手術によって修復した直後の腱板は非常にデリケートなので、患部に負担をかけないようにリハビリを行います。手術後のリハビリの流れは医療機関によって異なるため、医師の指示に従いましょう。状態が落ち着いたら徐々にリハビリを進めて、機能の回復を図ります。
腱板損傷のリハビリの禁忌
腱板損傷後は、症状の悪化を防ぐために肩に負担のかかりやすい運動・動作を控える必要があります。ここでは腱板損傷のリハビリや日常動作で避けるべき動きを解説します。腱板損傷後に避けるべき動作
ここでは腱板損傷後に避けるべき動作をご紹介します。肩まわりの過度なストレッチ
肩まわりの過度なストレッチは、損傷した筋肉を痛める原因となるので避けましょう。腱板損傷は筋肉が部分的に断裂している状態です。その状態から筋肉を引き伸ばそうとすると、さらに断裂が進んで症状が悪化してしまいます。痛みによって筋肉が硬くなると可動域も制限されるため、適度なストレッチは必要です。しかし、過度なストレッチは筋肉を傷つけることになるので、注意しましょう。腕を高く持ち上げる動作
腕を高く持ち上げる動作は肩関節が大きく動くため、腱板を痛める原因となります。日常生活では上にある棚から物を取り出したり、洗濯物を干したりするときに腕を高く持ち上げる機会があります。また、スポーツでは水泳や野球でボールを投げる場面などが当てはまるでしょう。腕を身体の後ろに回す動作
腕を背中に回す動きも腱板を引き伸ばしてしまうので、注意しましょう。日常生活でたとえると、エプロンを着るときに後ろのヒモを縛る、ネックレスをつけるなどの動作が当てはまります。腱板を損傷している状態ではこれらの動作を避け、必要であれば他の方に協力してもらいましょう。重いものを持ち上げる動作
重いものを持ち上げる動作は腱板に負担がかかるので避けましょう。お米や洗濯物をまとめて運んだり、仕事で重い物を持ったりする機会が多い方はとくに注意が必要です。軽い状態でこまめに運ぶ、台車を活用するなどの工夫をして、肩に負担のかからないような生活を送ることが重要です。手術直後の過度な運動
手術直後の肩は非常にデリケートなので、負担をかけると腱板が再断裂する恐れがあります。先ほど紹介した動作はもちろん、肩を動かすこと自体にも注意しなければいけません。手術によってつながった腱板は、その後約3か月ほどは弱い状態のままです。腱板が引き伸ばされるような運動を避け、装具で固定することが大切です。手術後はムリをせず、医師の指示に従いながら少しずつ運動をしていきましょう。腱板損傷の保存療法としてのリハビリ内容
腱板損傷の保存療法では、どのようなリハビリを行うのでしょうか。ここでは、その具体的なリハビリ内容についてご紹介します。可動域訓練
可動域訓練によって肩の動く範囲を広げます。腱板損傷では痛みによって筋肉や組織が緊張し、やがて癒着すると肩関節の動きが制限されます。肩の動きが制限されると日常生活で支障が出てしまうので、可動域訓練の実施は重要といえるでしょう。痛みの出ない範囲で肩を動かし、筋肉や組織を適度にストレッチしながら癒着を防止します。筋力トレーニング
腱板損傷によって衰えた筋肉を鍛える目的として、筋力トレーニングを行います。「腱板」と呼ばれる筋肉は深い位置についているので、「インナーマッスル」と呼ばれることもあります。一方で、表層にある大きい筋肉を「アウターマッスル」と呼び、それぞれの役割は以下の通りです。● インナーマッスル:関節を動かしたときの安定性を高める
● アウターマッスル:関節を大きく動かす
このように、それぞれをうまく機能させることで肩関節を安全に動かせるのです。インナーマッスルが衰えていると不安定な状態で肩が動き、関節への負担が高まる恐れがあります。この問題を改善するためには、腱板損傷で衰えたインナーマッスルを中心に鍛える必要があります。
生活指導
日常生活のなかで損傷した腱板を悪化させないように、動作指導を行うことも大切です。その方が普段の生活で行っている動きを聴取しつつ、腱板に負担のかからない動作の指導をします。とくに注意したいのが、寝ているときの姿勢です。普通のあお向けの姿勢で寝ようとすると重力の関係で肩関節が下に落ち込みやすいため、腱板に負担がかかりやすくなります。あお向けの際は肩甲骨と腕の下にタオルやクッションを敷いて、肩関節が下に落ち込まないような工夫をしておきましょう。就寝中は無意識に腱板を痛める恐れがあるので、起きた後に肩が痛いと感じている方は対策が必要です。
腱板損傷の手術後のリハビリの流れ
腱板損傷の手術後のリハビリの流れは、医療機関が定めているプロトコル(スケジュール)にしたがって進めていきます。基本的に、手術後初期は安静が中心で、経過とともに少しずつ運動を開始します。リハビリのプロトコルの例としては、以下の表の通りです。術後の経過 | リハビリ内容 |
1日目 | 肩を動かしてもらいながら痛みのない範囲で運動を開始 |
7日目 | 肩を動かす範囲を広げつつ、関節周囲の筋肉のトレーニングも開始 |
21日目 | 傷の具合や可動域に問題がなければ退院が可能 その後は通院によるリハビリを開始 |
28日目 | 自身で肩を全方向動かすリハビリを開始 |
35日目 | 日常生活での運動制限を解除 |
2か月目 | パソコン作業やウォーキングなどの軽い運動が可能となる |
4〜6か月目 | 経過が順調なのでリハビリ終了 |
参考:腱板断裂(けんばんだんれつ) - 霞ヶ浦医療センター
自宅でできるリハビリ内容
ここでは自宅でもできるリハビリ内容についてご紹介します。肩甲骨の可動域練習
肩甲骨の可動域練習について、2つ方法をご紹介します。【可動域練習その①】
1. イスに座った状態でテーブルに両手をつける
2. 姿勢を崩すイメージで骨盤を後ろに倒す
3. 姿勢をまっすぐにするイメージで骨盤を立てる
4. 2〜3の手順を1回として、10回×3セット行う
【可動域練習その②】
1. イスに座った状態でテーブルに置かれたタオルに両手を乗せる
2. タオルでテーブルを拭くイメージで身体の前に倒す
3. ゆっくりと身体を元に戻す
4. 2〜3の手順を1回として、10回×3セット行う
肩の痛みが出ない範囲で上記の可動域練習をしてみましょう。
腱板・肩関節周囲筋のトレーニング
こちらでは腱板と肩の周囲の筋肉のトレーニングについてご紹介します。【腱板のトレーニング】
1. イスに座った状態でテーブルの上にある500mlのペットボトルをつかむ
2. 肘をテーブルにつけたまま、痛みの出ない範囲で腕を左右に動かす
3. 左右動かして1回として、20回×3セット行う
腱板はインナーマッスルなので、比較的負荷の少ないトレーニングで筋肉を鍛えます。
【肩周囲筋のトレーニング集】
● 胸を前に張る運動
● 肩をすくめる・下げるを繰り返す運動
● 壁を使用した腕立て伏せの運動
● あお向けで腕を上げている状態で前に出す運動
肩周囲筋のトレーニングはさまざまあるため、ムリのない範囲で腱板と並行しながら鍛えていきましょう。
危険な動作に注意して腱板損傷のリハビリをしよう
肩はデリケートな関節なので、ふとした動きでも腱板に負担をかけてしまうケースがあります。腱板に負担のかかる動きを続けると、肩の痛みが強くなったり、手術が必要となったりする恐れもあるでしょう。腱板損傷の症状の悪化を防ぐには、避けるべき動きを把握しておくことが大切です。腱板に負担をかけすぎないような動きを意識しつつリハビリを行っていきましょう。関連ジャンル
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