理学療法士(PT)の実習は辛いって本当?理学療法士になるための“実習の心得”とは
理学療法士になるために実施される臨床実習とはどのような内容なのでしょうか。また、理学療法士の実習が辛いといわれる理由と、近年導入が進む改善策についてご紹介しています。
更新日:2023年04月06日
公開日:2021年07月01日

理学療法士になるために必須となる実習は、臨床現場で実際に患者さんと接したり現役の理学療法士の仕事を見たりできる貴重な機会で、実習を通して得られるものは非常に多くあります。
しかし、一部の学生からは「理学療法士の実習は厳しい」という意見も少なからず出ているようで、実際に実習が辛くて理学療法士になるのを諦めたという人も…。
そこで、当コラムでは理学療法士の実習がどのようなものなのか、また実習が辛い、厳しいといわれる原因について調べてみました。
また、今後実習を控えているという方のために、無理なく実習を乗り切るための「実習の心得」についてもご紹介します。
目次
理学療法士になるためにリハビリを学ぶ臨床実習とは
理学療法士の養成学校では、基礎教養、教養科目などの共通科目や専門科目のほかに、臨床実習というものが行われます。臨床実習とは、養成学校で習得した知識や技術を病院などの施設で実施し体験することで、理学療法士の仕事に関する理解を深めていくことを目的としています。
理学療法士の実習内容は、「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」によって定められており、原則として「見学実習」「評価実習」「総合臨床実習」の3つで構成されています。
1年次や2年次では見学実習(リハビリの様子を見学し学ぶ実習)と評価実習(患者の状態を評価する実習)が行われ、3年次あるい4年次になるとスーパーバイザーと呼ばれる指導者のもと約2ヶ月間臨床の現場で本格的な総合臨床実習が行われます。
総合臨床実習では実際に入院している患者さんを担当するため、緊張感を持って現実の仕事に近い体験ができ、将来の進路を決めるうえでも非常に大きな学びとなる実習内容となっています。
理学療法士になるための1年次から4年次までの実習スケジュール
先述した通り、理学療法士になるために養成学校で行われる実習は見学実習・評価実習・総合臨床実習の3つです。ここでは、養成学校の1年次から4年次にかけて、実際にどのようなスケジュールで実習が行われていくのか参考例をご紹介します。
<理学療法士の実習スケジュール>
1年次~2年次 | 臨床見学実習(1週間) | 医療機関などで理学療法士の仕事を見学し学びます。 |
---|---|---|
訪問(通所)リハ実習(1週間) | 介護老人保健施設訪などの問リハビリや通所リハビリで介護体験やレクリエーション体験を通してケアを学びます。 | |
2年次~3年次 | 評価実習(約4~6週間) | 医療機関などで実習指導者の指導・監督のもと、養成学校で習得した評価の知識や検査、測定方法を患者さんに対して行い、実践的に理学療法業務を学びます。 |
3~4年次 | 臨床総合実習(16週間) | 医療機関などで実習指導者の指導・監督のもと、養成学校で学んだ理学療法を総合的に実践し学びます。病院の受け入れ状況によっては近隣だけでなく遠方まで足を運び実習を行うこともあります。 |
理学療法士の実習は誰でも辛い!?その理由とは
まだ社会人経験のない方にとって、理学療法士になるための実習ははじめて学校以外の場所で実務に近い形で理学療法を学ぶ機会となり、不安に思ってしまう人も多くいます。しかし、その不安以上に実際の実習は「辛い」「厳しい」「しんどい」と感じる学生が多く、なかには「実習先への移動中や帰り道はいつも泣いていた」「もう逃げて楽になりたい」と思い詰めてしまう人までいるようです。
なぜ、それほどまでに理学療法士の実習は辛いと感じるのでしょうか。
その理由について調べたところ、特に意見が多かった「実習が辛い理由」には以下のようなことが挙げられました。
実習が辛い理由その1:課題の量が多い
実習が辛いと感じる最も多い理由のひとつとして、実習を通して出される課題の多さが挙げられます。本来課題は実習先で行うものですが、2017年の厚生労働省のアンケートでは76.2%の学生が毎日家に課題を持ち帰って行っていたと回答しています。
また、課題の量が適量だったという学生も約6%しかおらず、課題の量に対して不満を持っている人が多いということがわかります。
慣れない実習で日々を乗り切ることに精一杯の学生が多いなか、家にまで持ち帰るほどの課題の量に心身ともに疲弊してしまうことも少なくないようです。
■理学療法士の実習課題について(※)
(※)出典:厚生労働省 第3回 理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会
実習が辛い理由その2:実習指導者との関係性
実習先の指導者と良好な人間関係が築けていれば約2ヶ月間の実習も苦ではありませんが、指導者との関係づくりで苦労する人も多いようです。実習をスムーズに進めるためには指導者と積極的にコミュニケーションをとることがとても大切ですが、慣れない環境とプレッシャーから意思疎通がうまくできない場合、実習が辛いと感じる大きな要因になりがちです。
指導者が学んでほしいことを理解していないと課題をこなしても自身にプラスにはならず、また良好な関係も築けないため、分からないことは必ず質問すべきです。
しかし、一生懸命努力をし質問をしても、怒られたり無視をされたりといった指導者からのパワハラを受けたという人は残念ながら一定数いるようです。
そういった被害を受けた場合は必ず通っている養成学校にすぐ相談するようにするなどの対処が必要ですが、立場を考えて相談できず辛い気持ちのまま実習が終わるのを耐えて待つこと人も少なくないようです。
実習が辛い理由その3:同級生との知識や技術の差
実習では養成学校で学び習得した知識や技術を実際に患者さんに対して行い、より実践的に理学療法士の業務全般を学んでいきますが、現役で活躍している理学療法士と比べれば学生の知識はまだまだ足元にも及ばないのは当たり前のこと。しかし、実習先で実際に理学療法を学ぶなかで、自身の知識の少なさや技術の乏しさを改めて理解したときに、その事実に挫けてしまったり自信を無くしてしまったりする人は多いようです。
また、同時期に他の医療機関などで実習を行っている同級生と情報交換をした際に、思いのほか自身よりもスムーズに実習が進んでいることを知り、同級生との知識量や技術量を比較してより実習が辛いと感じてしまうこともあります。
自信を失っている状態で実習中に理解不足から指導者に叱責されることが続けば、「自分は理学療法士に向いていないのではないか」と落ち込んでしまうことは誰にでもあります。
しかし、現実として周囲との差に落ち込み実際に途中でリタリアしてしまう人も一定数いるようです。
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「実習=辛い」を払拭するために導入が進むクリニカルクラークシップと理学療法
理学療法士の実習が辛い理由はさまざまですが、そのなかでも特に不満の声が多かった「課題の量」を軽減するために、ほとんどの理学療法士の養成学校では症例レポートを重視した実習体制を見直す動きが行われています。その改善策として導入が進んでいるのが「CCS(クリニカルクラークシップ)型実習」と呼ばれる実習で、早いところでは平成28年度からこの実習体制を取り入れているところもあります。
この「CSS(クリニカルクラークシップ)型実習」とは、現場で働く理学療法士のもとで実際に患者さんと接しながら検査測定技術や治療技術などを学ぶ“診療参加型”の実習となっており、見学・模倣・実施と3つのステップを踏みながら段階的に学ぶことができます。
従来の実習と比べると、「CSS(クリニカルクラークシップ)型実習」は症例レポートよりも臨床現場での実習を通した学びを重視しているため、学生の負担を大きく軽減することに繋がっており、ゆとりのある実習環境のなかでさまざまな症例に対する理学療法を学ぶことができるようになっています。
実習は学生にとって重要な学び場!実習で失敗しないための心得
誰でもはじめての場所で実習を行うのは緊張と不安がつきものですが、実習でしか学べないことは数多くあり、理学療法士として必要な知識と技術を身につけるためにも実習は重要な学びの場であることは間違いありません。そのため、不安が先行してしまい実習に集中できないなんてことは本末転倒です。
では、実習で失敗しないためにもこれから臨床実習を控える学生の方が心得ておくこととは一体どのようなことが挙げられるのでしょうか。
忘れがちな実習の本来の目的をおさらいしつつ、実習前に確認しておきたいこと、また実習時に注意しておきたいことをそれぞれ確認してみましょう。
実習は辛いものと思う前に!実習の目的を振り返ろう
理学療法士になるために養成学校の3年次あるいは4年次で実施される臨床実習は、医療・福祉施設で理学療法士の業務に触れ学内で学んだ知識と技術を統合すること、そして医療に携わる一員として理学療法士の役割を理解することを目的としています。実習を通して将来自身が理学療法士としてあるべき姿をより具体的に想像し、卒業後の進路をより明確にするきっかけになることも多く、実習でしか学べないことは多くあります。
事前に準備すべきものを確認しよう
実習は長期間慣れない環境で実施されるため、体調を崩してしまうこともあるかもしれません。そうならないためにも、普段から自己管理のひとつとして体調管理をきちんと行うことはとても大切になります。
不規則な生活をしている人は実習に向けて早寝早起きを行い健康的な生活に戻し、適度な休息をとって心身ともにクリアな状態で臨むようにしましょう。
また、実習先で想定される基礎となる知識や技術はできればメモなどに簡潔にまとめ、持ち歩けるようにしておくことも大事です。
メモは実習中は必須アイテムとしてすぐに取り出せるところに入れておき、実習中で勉強になったことや指導者からアドバイスをもらったことなどを記録できるようにしておくと、後で復習する際にも活用できます。
実習で注意しておきたいことを確認しよう
実習先の多くは医療機関で、さまざまな職種の方や患者さんがおり、社会人としてのマナーや態度は特に気をつけなければいけないことのひとつとなります。当たり前ですが遅刻や欠席はしてはいけませんし、身だしなみや言葉遣いも社会人として適切にしなければなりません。
実習に集中するためにも、節度をもって社会人、また医療人としてのマナーと態度を守ることは特に注意するようにしましょう。
<実習先で気をつけたい社会人マナー>
・職員や患者さんに笑顔で明るく挨拶を行いましょう。
・目上の方へ話す際の言葉遣いに気をつけましょう。※話し言葉は厳禁
・課題の提出期限は必ず守りましょう。
・遅刻や欠席は厳禁です。どうしても体調が優れない場合は必ず連絡を入れましょう。
・病院などにおける守秘義務は守りましょう。
・向上心をもって実習に挑む姿勢をもちましょう。
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まとめ
高齢化に伴う医療需要の増加や地域包括ケアの構築などにより、従来よりも理学療法士には高い質が求められる時代となっています。しかし、これまでの理学療法士の養成学校では実習の内容や実態がそれぞれの学校によって大きく異なる部分が多く、学生にとって大きな負担となるケースも多々みられてきました。
そのため、大半の学生から理学療法士の実習は厳しく辛いものといわれてきましたが、2020年に理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラムの改定が行われたことで、臨床実習の在り方も大きく変化しました。
近年、新たに導入が進む診療参加型の実習(CSS型実習)では、従来の症例レポート重視の考え方から臨床現場での直接的な教育にシフトしており、徐々に“実習=辛い”というイメージは払拭されつつあります。
とはいえ、まだまだ一部では実習は単に理学療法士の国家試験のために行うものという意識があることも否めず、理学療法士を志す学生にとって充実した実習となるかは実習先の指導者側の教育意識によって左右される部分も少なからずあるでしょう。
ですが、これまで辛い・厳しいといわれてきた理学療法士の実習は、カリキュラムの改定により確実に質・内容ともに向上しつつあり、実習生が安心して学べる環境の整備は進んでいます。
学校外での慣れない環境により実習を不安に思う人も多いはずですが、理学療法士になりたいという気持ちを忘れずに、分からないことはすぐに質問するなど積極的な姿勢で実習に挑むことで前向きに乗り切りましょう。
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