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半側空間無視の方に対してのリハビリは?おもな内容とADL面での工夫点も解説

半側空間無視の方に対してのリハビリは?おもな内容とADL面での工夫点も解説

更新日:2023年06月05日

公開日:2023年06月05日

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車いすの女性と介助する女性が上を見上げる様子

左方向への注意が乏しい「半側空間無視」の障害に対して、どのようにアプローチすればいいか悩むセラピストはいるのではないでしょうか。左無視は右半球の損傷によって起こりやすく、その程度や種類も幅広いため、詳細な評価を実施したうえでリハビリを進める必要があります。この記事では半側空間無視の概要や評価方法、おもなリハビリの種類についてご紹介します。無視の特徴をおさえておくことで、どのようなリハビリが効果的なのかが明確となるでしょう。

半側空間無視とは

車いすに座って微笑む女性

ここでは半側空間無視の概要についてみていきましょう。

空間の半分側の認識がしにくい状態のこと

半側空間無視とは、損傷した脳の反対側からの刺激に対して認識しにくくなる障害のことです。 これは視力の問題ではなく、注意障害の1つとされています。無視によって起こる実際の症状としては、以下の通りです。

● 顔が左側に向かない
● 移動していると左方向の障害物に接触しやすい
● 食事場面では左方向の食器に気づかずに残してしまう
● 左方向の道を見逃してしまう

無視といってもその種類は多く、さまざまなバリエーションがあります。反対側の空間に反応できないものや対象物の半分が認識できないもの、その両方の要素を持っている患者さんもいるでしょう。

右半球の脳損傷によって起こりやすい

半側空間無視は右脳半球を損傷したときに発症しやすく、割合としては急性期で70〜80%、慢性期で40%程だという報告があります。一方で、左半球による無視の割合は少なく、発症率は0〜38%だといわれています。 これは左右の脳半球それぞれが備わっている注意機能が異なるのが原因です。左右の脳半球による注意の配分は以下の通りです。

● 右半球:右方向、左方向に注意を向けている
● 左半球:右方向に注意を向けている

右半球が損傷した場合、残存した左半球は右方向への注意しか向かないため、左無視を引き起こします。左半球は損傷しても左右に注意を向けている右半球が残存するため、無視が現れるケースが少ないのです。

半側空間無視の他に起こりやすい高次脳機能障害

スタッフさんが車いすを使う女性を介助する場面

半側空間無視の障害が現れるとき、その他にも「身体失認」や「病態失認」などの高次脳機能障害引き起こすケースがあります。ここではそれぞれの高次脳機能障害について解説します。

身体失認

身体失認とは「半惻身体失認」とも呼び、麻痺側の上下肢の状態に気づかなかったり、認識しにくくなったりする障害です。 身体失認が現れている患者さんの行動例としては以下の通りです。

● 麻痺側の上肢に気づかない
● 麻痺側の上肢に対して「自分のものではない」と認識する
● 片麻痺の自覚がなく、いつものように立ち上がったときに転倒してしまう
● 麻痺側の上下肢を不自然な位置で放置する

このように、身体失認は麻痺側の注意低下だけでなく、自身の身体の一部であることさえ認識できなくなる場合もあります。身体失認による転倒や麻痺側の状態悪化を防ぐには、こまめに上下肢を確認したり、注意を促したりする必要があるでしょう。

病態失認

病態失認とは自身の病気、あるいは症状に気づかずに無視してしまう障害です。 片麻痺によって手足が明らかに動かない状態でも、本人はそれを否定して「悪くなっていない」と主張します。手足が動かないと自覚していても、「今日は疲れているから」「今日は腕が痛いから」という理由で正当化することもあるでしょう。

本人は病気になった自覚がないため、普段通り動こうとして転倒するリスクが高まります。このように、無視がみられた場合は身体失認、病態失認が合併していないかを評価することが大切です。それぞれの障害も無視と同様に、ADLへの支障をきたしやすいので、適切なリハビリが求められます。

半側空間無視の評価方法

バインダーを手にする白衣の男性

半側空間無視はどのような方法で評価するのでしょうか。ここでは臨床でよく用いられる評価方法についてご紹介します。

BIT行動性無視検査日本版

BIT行動性無視検査日本版(以下BIT)とは、半側空間無視を評価する机上検査です。以下の6項目の通常検査と9項目の行動検査で構成されており、それぞれの点数をもとに無視を評価します。

【通常検査】
● 線分抹消試験
● 文字抹消試験
● 星印抹消試験
● 模写試験
● 線分二等分試験
● 描画試験

【行動検査】
● 写真課題
● 電話課題
● メニュー課題
● 音読課題
● 時計課題
● 硬貨課題
● 書写課題
● 地図課題
● トランプ課題

それぞれの検査項目、および合計の点数にはカットオフ値があり、その値をもとに無視の程度を判断します。BITは机上での評価ですが、日常生活を想定した行動検査も行うため、ADL場面で起こる無視の影響も予測可能です。

CBS

CBS(Catherine Bergego Scale)は、ADL上での半側空間無視の程度を評価する方法です。BITの机上検査で異常がなくても、実際の日常生活面では無視による問題が起こることがあるため、CBSによる評価も行います。CBSの内容は10項目あり、それぞれの程度を採点して無視の重症度を評価します。評価項目と採点基準は以下の通りです。

【評価項目】
1. 左側を忘れて整髪・髭剃りをする
2. 左側の袖を通したり、上履きを履いたりするときに困難さを感じる
3. 左側の食べ物を食べ忘れる
4. 食後に口の左側を拭くのを忘れる
5. 左側を向くのに困難さを感じる
6. 左半身を忘れる(左腕を肘掛けにかけるのを忘れる、左足を車イスのフットレストに置くのを忘れ
る、など)
7. 左側への注意が困難である
8. 左側にいる人や物にぶつかる
9. よく行く場所やリハビリ室で左に曲がるのが困難である
10. 部屋や風呂場で左側にある物を見つけるのが困難である

【採点基準】
0点:無視なし
1点:軽度の無視がある
2点:中等度の無視がある
3点:重度の無視がある

このとき、合計10点以上あると無視と判断され、点数が大きくなるほど重症度が高まります。

Fluff test

Fluff testは半側空間無視のうち、身体空間に関わる障害をチェックするための評価方法です。評価内容の手順は以下の通りです。

【評価内容の手順】
1. 被験者は座位、あるいは立位の状態で状態で閉眼してもらう
2. 検査者は左右の上下肢にあたる部分の衣服に洗濯バサミやステッカーを6個ずつつける
3. 被験者に閉眼した状態で洗濯バサミ、あるいはステッカーを外してもらう
4. 外し忘れやかかった時間をチェックする

実施の結果、3つ以上の取り忘れがあった場合は無視の可能性があります。また、すべて外せたとしても時間がかかっているようであれば無視ではないとは言い切れません。他の評価結果と照らし合わせながら、さまざまな角度で無視を判断することが大切です。

半側空間無視のリハビリ方法

折り紙を折る手

半側空間無視のリハビリにはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは無視の患者さんに行うリハビリ方法についてご紹介します。

視覚探索訓練

視覚探索訓練は、対象をとらえるために順序よく視覚的に探索する訓練です。半側空間無視の患者さんは最初から左方向に注目するのは困難です。そのため、右から左へ徐々に注意を促したり、声かけを行って聴覚的な手がかりを活用したりして、左方向に意識を向けていきます。実用的に視覚探索訓練を進めるポイントは以下の通りです。

● 無視の重症度にあわせて課題の難易度を調整する
● 見落とした際のフィードバックを行う
● 探索したい場所に目印をつける
● 左側に注意を向けた後、右側に戻らないような工夫をする
● 探索をすぐにやめないような工夫をする
● 規則正しい探索を行う

視覚探索訓練は、課題に近い動作において無視の改善が期待されています。一方で、課題に類似した行動以外での効果は乏しいため、ADLに寄せた訓練内容で実施することが重要といえるでしょう。 

Spatiomotor cueing

Spatiomotor cueingは、左上肢を動かすことで半側空間無視の改善を目指すリハビリ方法です。視覚的な注意を促すだけでなく、左上肢の運動を行うことによって左無視が改善するという報告があります。 そのため、左上肢の随意性がある場合は、リハビリで運動を積極的に取り入れることが大切です。ただし、すべてのケースに効果があるわけではないので、患者さんごとのリハビリ状況をよくチェックしましょう。

反対側への促し

体幹を左方向へ向けるアプローチも、半側空間無視に効果的といえるでしょう。体幹を左方向に向けることで、無視が改善するという報告があります。 何か課題を行う際は体幹を左方向へ向けるように環境を設定する工夫が重要です。体幹へのアプローチは、座位・立位での姿勢をキープする機能が必要なので、転倒をはじめとしたリスクには注意しましょう。

プリズム眼鏡の使用

右方向に偏移させたプリズム眼鏡の装着も、左方向の注意が向きやすくなるという報告があります。プリズム眼鏡をかけた患者さんがリハビリを行った結果、無視の改善効果が2時間程続いたといわれています。 

具体的なリハビリ内容としては、プリズム眼鏡をかけた状態で目標物に対して素早く右手で指し示す運動などがあるでしょう。プリズム眼鏡の効果は短時間で、しばらくすると症状が戻ったり日常生活での反映が乏しかったりなどの報告があります。病巣や症状の程度によっては一定の効果が期待されている方法でもあるため、継続的なリハビリで状態をよくチェックする必要があるでしょう。

反復経頭蓋磁気刺激

反復経頭蓋磁気刺激(以下rTMS)による治療も、半側空間無視の改善につながります。rTMSとは特殊な器具によって磁場を発生させて、脳の特定領域を電気による刺激を与える方法です。rTMSを活用して無視の原因となっている病巣の神経活動をおさえることで、障害の改善が期待できます。 

出典:脳血管障害 (右半球損傷)―半側空間無視と関連症状―

半側空間無視に対するADL面での工夫

車いすの男性と笑いかけるスタッフさん

半側空間無視は日常生活の動作にも大きく影響するため、ADL面での工夫も必要です。ここでは日常生活で気をつけたい場面での工夫ポイントについて解説します。

食事面

左半側空間無視のある患者さんの食事面では、以下のような工夫が大切です。

● 食器を右側に寄せておく
● 食事をワンプレートで提供する
● 食事のメニュー表も一緒に置いておく

左無視の患者さんは左側に置いてあるご飯を認識しにくいので、食べ忘れてしまう可能性があります。そのため、上記のような工夫をしておくと食べ忘れることなく食事ができるでしょう。メニュー表を確認して食べたもの、食べていないものを把握すれば、食器を見逃す心配もありません。無視の方が食事がスムーズにできるような工夫をすることで、介助量の軽減によるADLの改善にもつながります。

移動面

左半側空間無視を抱える患者さんの移動時は、以下のような工夫を心がけましょう。

● 右方向から声掛けを行う
● 介助を行う際は左方向から行う
● 右方向の壁に沿って移動するようにする

無視の患者さんは、油断すると左側の壁や障害物に接触してしまい、そこから転倒につながる恐れがあります。左片麻痺のある状態であれば、さらにバランスが悪くなって転倒の危険性が高まるでしょう。

障害物の接触や転倒を防ぐには、認識しにくい左側からの介助を行うことが大切です。また声掛けのみが必要な患者さんであれば、認識しやすい右方向からサポートするのもおすすめです。歩行自体は問題ないものの、半側空間無視によってふらつきがみられる患者さんであれば、右側の壁を頼りに移動すると転倒のリスクが下がるでしょう。

トイレ動作

トイレ動作を行う際に工夫しておきたいポイントは、以下の通りです。

● 車イスの操作手順や位置を固定化させる
● 右側に手すりのあるトイレを使用する
● ドアや床に目印をつけて視覚的なサポートをする

左半側空間無視の患者さんは、トイレの際にドアや壁に気付かずにぶつかって転倒する危険性があります。車イスのブレーキやフットレストの操作を忘れたり、左側のズボンの着脱がうまくできなかったりする恐れもあるでしょう。そのようなリスクを軽減するために、上記の工夫でトイレの環境を整えておくことが大切です。車イスをうまく操作してトイレ動作の手順を固定化するには時間がかかるので、リハビリで何度も練習しましょう。

起居・移乗動作

ベッド上での起居・移乗動作で工夫しておきたいポイントは、以下の通りです。

● 起居・移乗動作の流れを固定化する
● 柵や手すりを活用して移乗時の安定性を高める
● 車イスのブレーキレバーを長くする
● フットレストに目印をつけておく

左半側空間無視の患者さんは、左上下肢がそのままの状態で起き上がることもあります。移乗ではブレーキとフットレストを忘れたまま行いやすいので、転倒の恐れがあります。起居・移乗での安全を確保するためには、上記のポイントをリハビリで指導しましょう。ブレーキやフットレストを視覚的に意識できるようにしておくと、移乗の際の転倒予防につながります。

半側空間無視のリハビリ方法のまとめ(まとめ)

車いすの女性の手を握るスタッフさん

半側空間無視にはさまざまなバリエーションがあり、別の障害との合併によってさらに複雑な症状が現れるケースもあります。評価をする際は、机上での検査だけでは十分な結果を得られないこともあるでしょう。ADL面に即した内容もよくチェックして、どのような生活場面で無視が現れるのかを確認することが大切です。これらの評価を吟味したうえで、どのようなリハビリが必要なのかを検討してみましょう。
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